第13話 救 済
この瞬間をセレスもルイーザも見逃さなかった。
セレスは毒が塗られた五本の矢を放ち、ルイーザは一瞬緩んだ精神に入り込む。
セレスの放った矢はそれでも三本が避けられ二本がカイザーに刺さる。
ルイーザはカイザーの意識を掴んだ。
毒矢はカイザーの大きな体でも二本も刺されば十分に効いてくる。
抵抗することもできず意識が遠のく。
闘いはその一瞬で決した。
ガルナとセレスはゼオンと共にカイザーの体を抱え、木陰へ運び横に寝かせた。
ルイーザは意識を掴んだままカイザーの胸に手を当て更に精神の奥深くに入り込む。
「とても強い…黒い影の呪縛が彼の奥底まで支配しているわ…。」
「何とかなりそうか…?」
ゼオンはルイーザに問う。
「ええ、これだけ至近距離で肉体に触れられれば遠距離からの支配には勝てると思うけど…それにしても強い力ね…。」
ルイーザは再び目を閉じ意識を集中させる。
「来た…。」
暫くカイザーの意識に触れていたルイーザがその意識を引っ張り上げたようだ。
ルイーザは目を閉じ集中したまま周りに喚起する。
「いい?起こすわよ?」
皆が警戒しながら固唾を飲んでその様子を覗き込んでいると、カイザーはゆっくりと目を開ける。
そして、暫く視点が定まらず空を見つめていた。
「どうだ…。気分は。」
ゼオンが声を掛けた。
カイザーの顔からは支配されていた時の毒気が抜け、ゆっくり首を傾けるとゼオンの目を見つめた。
「お前は…ゼオンか…。私は…どうなったんだ…。」
「まだ無理をするな。今のお前の精神はかなり衰弱している。」
「ああ、そのようだな。意識が定まらない。」
その様子を見て一同は緊張から解き放たれ、フーっと息をついた。
ガルナが口を開く。
「どうしますかな。このまま野営地に戻ってカイザー殿の回復を待ちましょうか。」
「そうだな。ここを引き上げてとにかく回復させよう。」
ゼオンが答える。
そして、ゼオンとガルナがカイザーの体を持ち上げ馬の背に乗せる。
セレスは取り残されているカイザーの黒い馬を連れに行く。
ルイーザはラルとルネを馬に乗せ移動の準備をする。
ゼオンはカイザーを乗せた馬に跨り、セレスは連れてきたカイザーの馬の手綱を握りながら自分の馬に乗る。そして、他の者もそれぞれ馬に乗るとその場を後にした。
カイザーは意識が朦朧としたままゼオンに抱えられ馬は進む。
鬱蒼と茂る木々の中を引き返していくと、野営地に残していた荷物を載せるための二頭の馬が、ゆうゆうと草を食んでいた。
ゼオンは洞穴の一番奥に寝床を作り、カイザーを寝かせた。
「すまぬ…。」
「気にするな。今は寝て気力を回復させろ。」
カイザーは黙って目を閉じた。
ゼオンはそのまま見守っていたが、呪縛から解き放たれたばかりのカイザーは時々うなされる。
外では他の者たちが夕食の準備をしていた。
焚火を起こし、ラル兄弟はセレスに教えてもらいながら肉を串に刺し火の周りに並べていく。
ルイーザも焚火に掛けた鍋で料理を始め、ガルナは腰掛けられるくらいの丸太を調達し、焚火の周りに椅子代わりに並べる。
一通り食事の準備が整うと、ルイーザは二人分の食事を持って洞穴の奥に行きゼオンの側に置いた。
「カイザーの具合はどう?」
「うん…少し残っている呪縛の力と戦っているようで、時々うなされている…。」
ルイーザはカイザーの胸に手を当て、目を閉じ意識を集中した。
カイザーの体が、一瞬僅かに動いた。
「これで少しは楽になると思うけど、呪縛の力が強くて完全には払いきれない。でも、四賢者のカイザーの精神力ならきっと乗り越えられるわ。」
ゼオンは、そうだな…。と、カイザーを見つめながら言った。
暫くすると、ゼオンは洞穴から出てきて焚火の側に座った。
ガルナが心配そうにゼオンの隣にやってきた。
「カイザー殿の様子は如何ですか。」
「まだ完全に呪縛が解けているわけではないが、あいつなら強靭な精神力で乗り切るだろう。」
「ですな。ヴァルディアス王国の四賢者であれば精神力も並外れているはず。」
ゼオンは静かに頷いた。
そして焚火を見つめながら、物思いに耽るようにふと口を開いた。
「俺は、仕えるべき王を失った。」
ガルナは静かに聞き、その言葉にゆっくりと応えた。
「私は、守るべき妻と子供を失いました。」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
「仕える者と、守る者か…。俺たちは正反対の場所に立っていたが、失ったものの重さは同じなのだろうな。」
「ええ……。上も下も関係ない。あの黒い影にとっては、我々の立場の違いなど何の意味もないことなのでしょう。」
ガルナは俯きながら言った。
―― そのころ、少し離れた地で盗賊団の頭目が荒野の外れに停めたバギーの荷台に腰掛け、月明かりの向こうの闇をじっと睨んでいた。
「妙だな……。俺の縄張りに黒い連中がうろつき始めてから、うちの雑魚どもの様子がおかしくなってきてやがる。」
子分が双眼鏡を覗きながら答える。
「例のゼオンとかいう男が追っている相手と、同じ臭いのような気がするんですがね。」
「フン……。あいつらの動向は掴んでいるんだろうな?」
「へい、もちろんですとも。何人かに後を付けさせてまさぁ。」
頭目はニヤリと口の端を上げると、酒を飲み干した。




