第12話 再 会
まばらに木々が生える平地を抜けると陽が傾き始め、だんだんと木々が生い茂り森の手前にさしかかった。
所々陽が届かない場所もあり、どこか異様な雰囲気に包まれる。
ゼオンは適度な大きさの洞穴を見つけ馬を停めた。
「ここから先は気が抜けなくなりそうだ。今夜はここで休もう。」
他の者もその言葉に従い馬を降り、野営の準備に取り掛かった。
ガルナは焚火の用意をし、その周りに座るための木や石を並べていく。
セレスは馬に下げて乾燥させておいた塩漬け肉の塊を降ろした。そして、塩を抜き柔らかくするため近くの小川へ浸しに行く。
ルイーザは料理の準備を始め、それを見ていたラルとルネはルイーザの料理を手伝いだした。
ゼオンはただ一人、林の中に入っていくと目を閉じて佇み、今では黒い影に取り込まれているかもしれない四賢者の一人である男の意識を探ろうとしていた。
四賢者は意識で繋がっていたが、乱れたその一人の意識はなかなか掴めずにいた。
しかし、そのときゼオンは何かを感じ取り、悔しげな言葉が口をついた。
「くそ!やはりカイザーか。」
一瞬感じたその気を逃さなかった。それは確かに四賢者のものだった。
ゼオンは重い足取りで野営地に戻ると肩を落として焚火の前に腰を下ろした。
心配になったルイーザが声を掛ける。
「どうしたの…?」
「やはり四賢者の一人、カイザーのようだ。今あいつの気配を感じた。」
「それじゃ、生きたまま支配されてるってことね。」
「ああ、屍にはなっていないようだ。」
その話を聞き、ガルナとセレスも意識を向けた。
「やはり対峙することになるのですか…。」
と、セレスが静かにゼオンに問う。
「…避けては通れないだろう。」
ガルナが疑問を投げかける。
「どのあたりにいるのか見当は付きますかな…。」
「ここからそう遠くはないところにいるようだが、黒い影の影響ではっきりとは掴めん。」
ゼオンは眉間に皺を寄せながら呟くように答えた。
セレスが川に浸して柔らかくしておいた肉を焚火で焼きあげ、ルイーザの作った料理が出来上がると皆は重い雰囲気の中で夕食をとった。
子供のルネもこの雰囲気を察し大人しくしていたが、焼かれた肉片を美味しそうにかじっていた。その様子だけがせめてもの救いだった。
食事が終わると洞穴の中にそれぞれ寝床を作り横になった。
ゼオンは焚火の傍らで星空を見つめながら、薄っすらとカイザーの気配を感じていた。
―― 五国が入り乱れたあの戦場でも、星は同じように出ていたな。
草一本残らなかった大地に、それでも星だけは変わらず降っていたことを、ゼオンはふと思い出していた。
誰も彼もが、何かを守るために剣を振るっていた。しかし、あの戦のあとに残ったのは頂点という名だけだったが…。――
ゼオンも洞穴で横になり、「きっと、向こうも俺の気配に気付いているだろうな…」と思いつつ、うつらうつらとしていると夜明けが近付いてきた。
ん…?とゼオンの意識が突然はっきりする。
「来る!向こうから近づいてくるか。」
夜が明けきらない野営地でガルナとセレスも目を覚ました。
ガルナが身を起こしながらゼオンに声をかける。
「行きますか…。」
「そうだな、気配が近くなっている。」
セレスも頷き体を起こす。
「分かりました。行きましょう。」
その気配にルイーザも目を覚ました。
「私は後方に控えて彼の意識を追います。」
ルイーザはラルとルネを起こす。ルネは眠そうな目を擦っている。
準備を整えるとゼオン、ガルナ、セレスは一頭ずつ馬を駆り、ルイーザはラルとルネを乗せ三人のあとを追い走り出す。
森の手前に沿って暫く走り、木々を抜けると野原に出た。すると、前方に黒い馬に乗った騎士がこちらを向いて立っていた。
「意外と近くまで迫っていたようだな…。」
ゼオンはそう呟くと、黒い騎士に声をかける。
「久しぶりだな、カイザー!」
しかし、カイザーは何も答えない。
カイザーの目は赤い光を怪しく放っている。
カイザーは無言のまま馬を降りると剣を抜く。
ズラッ…
剣を鞘から抜く鈍い金属音がした。
ゼオンの刀に負けず劣らずの長剣。
ゼオンも長刀を抜く。
カイザーは無言でゼオンに近づいてくる。
ゼオンは構える。
その様子を背後からガルナとセレスが固唾を飲んで見守っている。
二人の後ろで、ルイーザとラル兄弟も見守る。
「最初から奥儀の打ち合いになりそうだな…。」
ガルナは険しい表情で零した。
「相手が魔物と化しているなら、手出し無用という訳にもいかないでしょうね。」
セレスも険しい顔で答える。
「その時は弓で援護してやってくれ。」
「分かりました。」
そう言うとセレスは矢じりに麻酔効果のある毒を塗り始めた。
そして、闘いが始まる。
ゼオンは右足を引き気を集中させ、カタパルトから打ち出されるように一気にカイザーに攻撃を仕掛けた。
カイザーは僅かに体を逸らし、それを避ける。そしてすれ違いざま、ゼオンの脇腹に空を切る音とともに拳を突き刺す。
しかし、ゼオンの脇腹にその拳は届いていない。
その瞬間ゼオンは片手で受け、かわしていたのだ。
「す…凄い。あの速さでお互いに攻撃を見切っている!」
セレスは溜まらず声を上げた。
「ゼオンはやっぱり凄いや!」
そう言いながら後ろでラルが目を輝かせる。
ルネは少し震えている。
「これは下手をすると相打ちになるかもしれん…」そう思いながら、ガルナだけは苦虫を噛み潰したような表情で二人の闘いを見つめていた。
ガルナとセレスの後ろの方でルイーザはそっと目を閉じカイザーの意識を探り始める。
「やはり精神力がとてつもなく強い。簡単には入り込めないようね。戦いの最中、精神力の弱まる一瞬の隙を狙って入り込むしかない…」ルイーザは目を閉じたまま、カイザーの意識を探り続けた。
二人の死闘は続く。
カイザーも足に気を溜めながら一瞬の速さでゼオンに詰め寄る。
剣の動きも見えない。
キーンッ!!
あちこちで刀の重なり合う音が聞こえ火花が散る。
二人は瞬時に移動し互いに間髪入れず攻撃しているようだが、目で追える限度を超えている。
「これでは狙いが定められない…」その動きにセレスは弓の狙いを定めることができなかった。
これはゼオンの精神に入り込もうとするカイザーにとっても同じことだった。
ゼオンの意識を掌握しようにも、猛烈な移動の速さにより瞬時に意識から外れる。
ルイーザは目を閉じたまま隙を探り続ける。
そのチャンスは突然訪れる。
ゼオンの態勢が一瞬崩れた。
カイザーは捉えたそのチャンスに大打撃を加えようと渾身の力で大振りな攻撃を仕掛けた。
「フ…。いつものお前ならこんな誘いは見抜けただろうに…」ゼオンは思い切り飛び上がり、カイザーの視界から一瞬消える。
空を裂く風切り音だけが、僅かに遅れて届いた。
カイザーが気付いた時、既に頭上から強烈な一打が首元に叩き込まれていた。
ゴッ、という重い衝撃音と共に、カイザーの巨躯が崩れ落ちる。




