第73話「選ぶもの」
あのプロポーズのあと。
特別な変化は、まだない。
でも。
確実に、何かは変わっている。
⸻
夜。
いつもの部屋。
ソファで並んで座る。
「……指輪どうする?」
レオが、何気なく聞く。
「……指輪?」
ラーナは少しだけ首を傾げる。
「何も考えてなかった」
即答。
レオが少しだけ笑う。
「だろうな」
「レオは?」
「俺もそんなに」
一瞬、間。
「……結婚指輪だけ決める?」
さらっと言う。
「……うん、それでいい」
ラーナも迷わない。
「仕事的にも邪魔にならないやつがいい」
「だよな」
あっさり決まる。
でも。
(……ちゃんと、なんか渡したいけどな)
レオは内心で思う。
口には出さない。
その代わり。
「じゃあ今度見に行く?」
「いいよ」
それだけで決まる。
⸻
――数日後。
ショップ。
ガラスケースの中。
並ぶ指輪。
ラーナはそれを見て。
「……全部同じに見える」
ぽつり。
レオが吹き出す。
「だろうな」
「違いわかんない」
「なんとなくでいいんじゃね」
店員の説明も、なんとなく聞く。
でも。
2人とも、そこまで強いこだわりはない。
「……これとか」
レオがひとつ指さす。
シンプルなリング。
でも、一部艶消しが入っていて
少しだけ表情がある。
「……いいかも」
ラーナが素直に頷く。
「派手じゃないし」
「邪魔にならなそう」
「だよな」
レオも納得する。
そのまま、試着。
ラーナが指につける。
一瞬。
細い指にリングが収まる。
それだけなのに。
(……やば)
レオが少しだけ見惚れる。
「どう?」
「いい」
即答。
「これめっちゃいいじゃん」
「……じゃあこれで」
決まるのも早い。
店員が説明を続ける。
「内側に石を埋めることもできます」
「へぇ」
2人で少しだけ覗き込む。
いくつか並ぶ、小さな石。
それぞれ意味があるらしい。
「……これじゃない?」
「……それ」
ラーナが指す。
同時に。
レオも同じものを見る。
一瞬、目が合う。
「被った」
「被った」
少しだけ笑う。
プレートには小さく書いてある。
―― olive green diamond
(仲良し・安らぎ)
「……決定じゃん」
「だね」
迷わない。
自然に、決まる。
それが、この2人らしかった。
レオはその様子を見ながら。
(……まあ、これはこれでいいか)
そう思う。
でも。
(ちゃんとしたのは、別でやる)
心の中で、決める。
ラーナはそんなこと知らないまま。
指にはめたリングを、少しだけ見つめていた。




