第72話「その先」
合格発表、当日。
部屋は静かだった。
いつもと同じ時間。
同じ場所。
でも。
空気だけが違う。
ラーナはソファに座っている。
スマホを持ったまま。
画面はまだ開いていない。
(……見れば終わる)
指が動かない。
レオは少し離れたところにいる。
机の前。
同じように、スマホを伏せて置いている。
(余裕って言ってたのに)
心臓だけが、うるさい。
お互い、何も言わない。
言えば崩れそうだった。
数秒。
数十秒。
時間の感覚が曖昧になる。
ラーナが先に息を吐く。
「……見る?」
小さい声。
レオは少しだけ顔を上げる。
「……一緒に?」
「……どっちでも」
本音じゃない。
でも、それ以上言えない。
レオが立ち上がる。
ラーナの隣に座る。
距離が少しだけ近くなる。
それだけで、少しだけ落ち着く。
「……せーので見る?」
「……うん」
スマホを持つ手。
ほんの少しだけ震える。
「せーの」
画面を開く。
一瞬。
時間が止まる。
番号を探す。
(ある)
でも、声が出ない。
ラーナが先に息を吐く。
「……受かってた」
レオも画面から目を離さないまま。
「俺も」
その瞬間。
張り詰めていたものが、一気にほどける。
でも。
大きく喜ぶわけでもない。
ただ、静かに息を吐く。
(終わった)
ラーナはスマホを置く。
そのまま少しだけ力が抜けて、肩が落ちる。
レオも同じように背もたれに寄りかかる。
無言。
でもさっきまでの沈黙とは違う。
軽い。
ラーナがぽつりと呟く。
「……よかった」
レオはそれを聞いて、小さく笑う。
「な」
それだけ。
それだけで、十分だった。
(終わった)
長かった時間。
やっと全部、区切りがついた。
でも。
すぐ次がある。
⸻
「……この先さ」
レオがぽつりと口を開く。
「どうする?」
ラーナは少しだけ視線を落とす。
「……どうしようか」
曖昧な答え。
空気が少しだけぎこちなくなる。
「同棲するときも言ったけどさ」
レオが続ける。
「俺、そういう意味で考えてるからな」
「……うん」
分かってる。
最初から。
「……で、どうなの」
「……なんのこと?」
「わかるだろ」
「わかんない」
「わかる」
少しだけ、詰める。
ラーナは視線を逸らす。
でも。
手が動く。
いつかと同じように、
レオの服の裾を、そっと掴む。
「……逃げないで」
「ちゃんと言ってよ」
小さい声。
でも、はっきりしてる。
レオが一瞬止まる。
(……ずるい)
逃げられない。
少しだけ息を吐く。
「……金ないから」
「何も用意してないけど」
「いいよ別に」
即答。
間。
レオがまっすぐ見る。
「……結婚、してくれる?」
一瞬。
ラーナの指が少しだけ強くなる。
でも、迷わない。
「……いいよ」
短い。
それだけ。
でも、全部だった。
レオは何も言わない。
ただ。
ラーナの手を引いて。
静かに抱き寄せる。
ラーナも、そのまま預ける。
もう。
離れる理由は、どこにもなかった。
いよいよ最終回が近づいてきました!まさかここまで書くとは、、後少しだけお付き合いください!




