表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
66/76

第66話「近いのに、遠い」

 六年生。


 時間はない。


 研究室。


 臨床実習。


 国家試験の勉強。


 気づけば、休む時間が消えていた。



(……忙しすぎる)



 それでも。


 たまたま、レオとラーナは臨床実習で同じ班になった。



(……最悪でも、最高でもある)



 でも。


 話す時間は、ほとんどない。


 現場。


 走る。


 記録。


 説明。


 すれ違うだけ。


 でも。


 近い。



(……触れたい)



 レオだけが、そう思っている。





 ふとした隙間。


 廊下。


 誰もいない一瞬。


 レオの指が、ラーナの手に触れる。



「……やめて」



 即。


 冷静な声。



(……仕事中か)



「冷たい」



 レオが少し不満そうに言う。



「普通」


「普通じゃない」


 一拍。


「集中したいから、お願い」



 ラーナは視線を外さずに言う。



(……そうなるよな)



 レオは手を引いた。



「……わかった」



 短く。


 でも、少しだけ不貞腐れてる。





 夜。


 限界の静けさ。


 それぞれ課題。


 記録。


 復習。


 会話はほぼない。


 ただ同じ空間にいるだけ。



(……これでいいのか)



 レオは一瞬だけラーナを見る。


 ラーナは集中してる。



(……遠い)



 でも。


 それ以上は言わない。





 ベッド。


 入るタイミングは別々。


 でも。


 ふと。


 目が合う。



(……今しかない)



 レオが、ラーナを引き寄せる。



「……やっぱ」


「同棲しててよかった」



 ラーナは少しだけ間を置く。



「……うん」


「……あとさ」


「一緒のベッドでよかったでしょ」


「……うん」



 小さく。


 レオが少しだけ笑う。



(……これでいい)



 その夜だけは。


 少しだけ呼吸が戻る。





 翌日。


 現場。


 レオは完全に仕事モードだった。


 迷いがない。


 動きが早い。



(……かっこいい)



 ラーナの方が、一瞬だけ乱れる。



「ラーナ、大丈夫?」



 同じチームの医師が声をかける。



「……大丈夫です」



 即答。


 気合いを入れる。



(……今は仕事)





 夜。


 やっと終わる。


 久しぶりに二人の時間。



「今日、大丈夫だった?」



 レオは普通に聞く。



「……一瞬だけダメになりそうだった」


「なにそれ」


「……レオのせい」


「は?」



 即反応。



「どういうこと」


「……なんでもない」



 逃げる。


 レオが一歩近づく。



「いや、それ一番気になるやつ」



(……言えない)



 ラーナは少し黙る。


 でも。



「……仕事モードだったから」



 小さく言う。


 レオが止まる。



(……ああ)



 すぐ察する。


 少しだけ息を吐く。



「……それはずるいな」



 低く。


 ラーナが顔を上げる。



「なにが」



 レオは笑わない。


 そのまま一歩近づく。



「そりゃ崩れるわ」



 静かに。


 空気が変わる。


 少しだけ、沈黙。


 ラーナは視線を逸らす。



(……今の、ずるい)



「……なに」



 レオが聞く。



「別に」


 一拍。


「ほんとに?」


「ほんと」



 即答。


 でも少し遅い。



(分かりやすい)



 レオが軽く息を吐く。



「……ラーナさ」


「仕事中、俺のこと見すぎ」



(……は?)



「見てない」


「見てた」


「見てない」



 即否定。


 レオが少し笑う。



「さっき、反応遅れた」


「……それは関係ない」


「あるでしょ」



 一歩近づく。



「俺のせいでダメになりそうだったんでしょ」



(……ほんとに言う)



 ラーナが黙る。



「……違う」



 小さく。


 でも弱い。


 レオがそのまま止まる。


 少しだけ目を細める。



「じゃあなに」



 静かに詰める。



(……言えない)



 ラーナは視線を落とす。


 その沈黙が答え。


 レオが小さく息を吐く。



「……ほんとさ」


「現場だと逃げないよね」



 ラーナが顔を上げる。



「今も逃げてない」


「逃げてる」


「逃げてない」



 いつものやつ。


 でも今日は、空気が違う。


 レオが少しだけ肩の力を抜く。



「……まあいいけど」



 一拍。



「今は仕事優先」



 そう言って、少しだけ距離を取る。



(……戻った)



 ラーナはほんの少しだけ息をつく。


 でも。


 そのあと。


 レオがぽつり。



「でもさ」



 振り向かないまま。



「終わったら覚悟しといて」



(……は?)



 ラーナが固まる。



「なにそれ」


「別に」



 軽く。



「仕事中は触れないから」



 一拍。



「その分」


「あとでちゃんと回収するだけ」



(……無理)



 ラーナの耳が一気に熱くなる。



「……やめて」



 小さい声。


 レオは振り返らないまま。



「やめない」



 それだけ。


 何事もなかったように動き出す。


 でも。


 ラーナはしばらく動けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ