表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/76

第58話「見せたくない顔」

 午前。


 病棟は、いつもより少し慌ただしかった。


 ラーナは指示を確認しながら、ナースステーションに戻る。


 そのとき。



「レオさん、さっきの件なんですけど——」



 聞こえてきた声に、足が止まる。


 視線を向ける。


 ——レオ。


 白衣姿。


 カルテを持って、看護師と話している。


 いつもより低い声。


 落ち着いた話し方。


 無駄がない。



(……また)



 この前と同じ感覚。


 でも、今日は——


 その周り。


 若い看護師が、少しだけ頬を赤くしている。


 視線。


 距離。


 空気。



(……)



 なんとなく、わかる。



(……そういう感じ)



 レオは、気づいてない。


 普通に、話してるだけ。


 でも。



(……そりゃそう)



 あの感じ。


 見せられたら。



(……無理でしょ)



 小さく息を吐く。


 そのまま、視線を外す。





 午後。


 廊下で、ばったり会う。



「ラーナ」



 名前を呼ばれる。


 振り向く。


 近い。



(……無理)



「今日どんな感じ?」



 いつもの声。


 でも。


 さっきの光景が、重なる。


 視線、合わせられない。



「……普通」



 短く返す。



「そっか」



 一拍。



「……なんかあった?」



(……鋭い)



「……別に」


「ほんとに?」


「ほんと」



 それ以上、続けない。


 ラーナはそのまま歩き出す。



(……何やってんの)



 自分でわかってる。


 そっけない。


 でも。



(……無理)



 さっきのが、頭から離れない。





 夜。


 帰宅。


 レオの方が先にいた。



「おかえり」


「ただいま」



 そのまま、少し距離を取る。



「……ラーナ」


「なに」


「なんかあった?」



 ストレート。



「なんもない」



 即答。



「嘘」


「嘘じゃない」


「明らかに変だったって」



 詰める。


 逃げ場、ない。



「……」



 一拍。


 ラーナが、少しだけ視線を落とす。



「……レオ、モテてる」



 ぽつり。



「は?」



 即反応。



「仕事モードのとき」


 一拍。


「看護師の女の子たち、見惚れてた」



 レオが止まる。


 数秒。


 それから。


 小さく、笑う。



「……嫉妬?」


「……そうじゃなくて」



 すぐ否定。


 でも。


 弱い。



「じゃあなに」



 一歩、近づく。


 逃がさない距離。



(……言えない)



 ラーナの思考が止まる。


 頭の中。


 さっきのレオ。


 白衣。


 声。


 表情。



(……かっこいい)



 でも。



(……無理)



 言えない。



「……別に」



 逃げる。



「別にじゃないでしょ」



 即、詰める。



「気にしてるから言ってんじゃん」



 沈黙。


 数秒。



「……レオが」



 小さく。



「……なんか違った」



 レオが、少しだけ目を細める。



「どう違うの」



 優しくない。


 でも強くもない。


 逃がさない聞き方。



「……」



 ラーナが、言葉を探す。


 でも。


 まとまらない。



「……仕事してるときの顔」


 一拍。


「……嫌いじゃない」



 遠回し。


 でも。


 ほぼ答え。


 レオが、完全に理解する。



(……あー)



 口元が、少しだけ緩む。



「……それで避けてたの?」


「避けてない」


「避けてた」


「避けてない」



 同じやり取り。


 でも。


 空気は、少し違う。


 レオが、一歩詰める。


 距離、近い。



「……かわいいんだけど」



(……無理)



 ラーナが、完全に視線を逸らす。



「……やめて」


「何を」


「そういうの」


「だってそうでしょ」


 一拍。


「仕事中の俺見て意識してんの」



 ド直球。


 ラーナが固まる。



「……違う」


「違くない」



 もう逃げ場ない。


 レオが、少しだけ顔を近づける。



「……じゃあさ」


「今の俺は?」



 低く。


 ラーナの呼吸が、少し乱れる。



「……同じ」



 嘘。


 でも。


 もう隠しきれてない。


 レオが、小さく笑う。



「……それは嘘」



 そのまま。


 手を伸ばす。


 頬に触れる。



「……顔、全然違うし」



(……終わった)



 ラーナが、何も言えなくなる。


 レオが、少しだけ優しくなる。



「……その顔」



 一拍。



「外で見せないでほしいんだけど」



 独占欲。


 少しだけ滲む。


 ラーナが、少しだけ目を上げる。



「……レオも」


「なに」


「……見せてた」



 即返し。


 レオが、少しだけ詰まる。



「……あれは仕事だから」



 でも。


 どっちも、わかってる。


 そのまま。


 距離は、もう戻らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ