第55話「来るなって言ったのに」
昼。
ラーナが目を開ける。
(……いない)
隣。
空いている。
少しだけ、ぼんやりしたまま起き上がる。
そのとき。
キッチンの方から、音。
(……いる)
ゆっくり歩く。
レオが、いつも通り立っている。
フライパン。
火。
手際。
「……起きた?」
「起きた」
それだけ。
いつもの空気。
(……さっきまであんなだったのに)
少しだけ、違和感。
⸻
ダイニング。
「いただきます」
静かに食べる。
数分後。
「……レオ」
「なに」
「なんで離してくれなかったの」
レオが一瞬止まる。
「……眠かったから」
「私は起きたかった」
「結局寝たじゃん」
即答。
「……起きたかったのに」
少しだけ不満そう。
レオが、少しだけ笑う。
「じゃあ」
一拍。
「今夜は来るなよ?」
ラーナが止まる。
「……行かない」
即答。
「ほんとに?」
「ほんとに」
目も逸らさない。
(……絶対来る)
レオは何も言わない。
ただ、少しだけ笑う。
⸻
夜。
静かな部屋。
ベッド。
ラーナは、ちゃんと端にいる。
(……来ない)
レオは、目を閉じたまま思う。
(……意地張ってるな)
⸻
数分。
動きなし。
(……ほんとに来ない?)
そのとき。
布団が、少しだけ動く。
(……来た)
触れる。
指先。
少しだけ、探るみたいに。
そのまま。
服を、掴む。
(……来てるだろ)
でも。
レオは、あえて動かない。
さらに近づく。
ぴったり。
完全に。
来てる。
「……もう知らない」
小さく呟く。
次の瞬間。
レオの手が動く。
ラーナの腕を、軽く引く。
「——っ」
距離が、一気に詰まる。
「……っ、なに」
ラーナが目を開ける。
「何してるの」
「来たから」
一拍。
「触ってる」
「……来てない」
「来てる」
「来てない」
「来てる」
また同じ応酬。
でも。
距離はそのまま。
レオの手が、少しだけ動く。
逃がさない位置。
「……嫌だ?」
一瞬。
ラーナが止まる。
視線が、少しだけ揺れる。
「……嫌じゃない」
小さい声。
でも、はっきり。
(……はい終了)
レオの呼吸が、少しだけ変わる。
「……言ったな」
「……何を」
「嫌じゃないって」
距離が、さらに詰まる。
逃げない。
逃げられない。
ラーナの手が、無意識に動く。
服を掴む。
(……また)
レオが小さく笑う。
「……ほんと来るなよって言ったのに」
「……来てない」
「来てる」
そのまま。
今度は、レオが寄せる。
完全に。
自分から。
「……ほんと無理」
低く。
でも。
そのまま、止まらない。




