第54話「認めない攻防」
朝。
「……なんでこんな近いの」
ラーナが、目を開けた瞬間に言う。
距離。
ゼロ。
腕。
完全に回されてる。
逃げ場なし。
「……レオ」
「んー……」
まだ半分寝てる声。
「近い」
「そっちが来た」
即答。
「来てない」
「来た」
「来てない」
「来た」
無駄に速い応酬。
「……来てない」
ラーナがもう一回言う。
レオが、少しだけ目を開ける。
「……俺、寝る前から動いてないよ」
一拍。
「……は?」
「マジで」
眠そうなまま言う。
「ずっとこの位置」
ラーナが止まる。
思い出す。
寝る前。
自分は——
端にいた。
今。
真ん中。
(……あれ)
視線が落ちる。
レオの位置。
変わってない。
(……嘘でしょ)
「……嘘」
「現実」
「嘘」
「認めろよ」
「無理」
即答。
ラーナが、腕を外そうとする。
「……離して」
「やだ」
即答。
「もう起きる」
「まだ起きない」
「起きる」
「起きない」
押し問答。
「……離して」
もう一度。
「やだ」
変わらない。
一瞬。
レオが、さらに力を込める。
「——ちょ、」
完全に、固定。
「……俺は寝る」
「は?」
「まだ眠い」
そのまま、目を閉じる。
ラーナがもがく。
「……無理」
「動けない」
「いいじゃん」
「よくない」
腕を外そうとする。
でも。
びくともしない。
「……離して」
「やだ」
「なんで」
一拍。
「来た責任」
「来てない」
「来てる」
もう一回、平行線。
ラーナが、少しだけ止まる。
(……無理)
完全に力の差。
数秒。
諦める。
「……最悪」
小さく呟く。
でも。
そのまま。
抵抗をやめる。
体の力が抜ける。
レオの腕の中。
そのまま。
少しだけ、近づく。
(……なんで)
自分でも分からない。
でも。
嫌じゃない。
レオが、うっすら笑う。
(……ほらな)
そのまま。
軽く抱き寄せる。
ラーナは、何も言わない。
抵抗もしない。
⸻
数分後。
ラーナの呼吸が、少しだけ落ちる。
寝た。
レオが、目を開ける。
「……ほんとに来るな」
小さく呟く。
でも。
腕は、離さない。
むしろ。
少しだけ強くなる。
「……無意識でこれかよ」
ため息。
でも。
どこか、満足そうに。
そのまま。
もう一度、目を閉じた。




