第52話「ベッド問題」
引っ越し準備。
段ボールが、少しずつ増えていく。
家具も、一つずつ決めていく。
「……ベッドどうする」
ラーナが、カタログを見ながら言う。
「買うでしょ」
レオは即答。
「今のやつ持ってくるの厳しいし」
「……うん」
一拍。
「ダブルでいいよね」
レオが、当たり前みたいに言う。
ラーナの手が止まる。
「……は?」
「え」
「なんで」
「なんでって」
「一緒に住むんだから」
レオが普通に返す。
「……別でしょ」
ラーナは即答する。
「は?」
「ベッドは別」
「なんで」
完全に噛み合わない。
「いや普通一緒でしょ」
「普通じゃない」
「いや普通」
「違う」
即被せ。
「……狭いじゃん」
ラーナが言う。
「一人で寝た方が楽」
「いや余裕で寝れるけど」
「無理」
「なんで」
「……落ち着かない」
レオが少しだけ黙る。
(……は?)
「今まで普通に一緒に寝てたじゃん」
「寝てない」
「いや寝てるだろ」
「……仮眠だった」
微妙なラインで否定する。
「……いやいや」
レオが少し笑う。
「今更?」
「今更」
ラーナは真顔で返す。
一拍。
「……じゃあさ」
レオが少しだけ声を落とす。
「俺は?」
「なに」
「一人で寝ろってこと?」
「……そう」
あっさり。
(……は?)
「いやそれはないだろ」
「なんで」
「なんでって」
レオが一歩近づく。
「それ同棲の意味なくない?」
「ある」
「どこに」
「生活」
「いやいやいや」
レオが笑いながらも詰める。
「寝るのも生活でしょ」
「……別に」
ラーナは視線を逸らす。
(……あーなるほど)
レオが少しだけ理解する。
「……照れてるだけでしょ」
「違う」
即答。
でも、少しだけ早い。
「いや絶対そう」
「違う」
「じゃあなんで」
一瞬、沈黙。
「……落ち着かないから」
少しだけ小さい声。
(……かわいいかよ)
「……慣れるでしょ」
「慣れない」
「慣れる」
「慣れない」
平行線。
レオが、小さく息を吐く。
「……じゃあ」
レオが少しだけ考える。
「試す?」
「……何を」
「一緒に寝るの、毎日」
ラーナが、少しだけ止まる。
「……今までも寝てる」
「それ、仮眠なんでしょ」
即返す。
「泊まるのと、毎日一緒なのは違う」
一瞬。
ラーナの思考が止まる。
(……確かに)
「……別に、変わらない」
「変わるって」
レオが少しだけ距離を詰める。
「毎日だよ?」
「……」
ラーナが言葉に詰まる。
「逃げ場ないけど」
さらっと言う。
(……それ)
(ちょっと無理かも)
「……やっぱり別」
「やだ」
即答。
「なんで」
一拍。
レオが、少しだけ声を落とす。
「普通に、一緒に寝たいから」
ラーナが止まる。
(……それ言う)
「……期間限定」
ぽつり。
「慣れなかったら分ける」
レオが少し笑う。
「絶対慣れる」
「慣れない」
「慣れる」
⸻
新居。
ベッド。
ダブル。
「……広い」
ラーナが呟く。
「でしょ」
レオは普通に横になる。
ラーナも隣に入る。
距離は——
自然と近い。
(……近い)
前も、こうだった。
でも。
(……毎日これ?)
その事実だけが、妙に引っかかる。
「……ラーナ」
「なに」
「もうちょいこっち」
「行ってる」
「来てない」
軽く腕を引かれる。
「——だから」
距離が詰まる。
慣れてるはずの距離。
でも。
(……逃げられない)
ラーナの指が、無意識に動く。
レオの服を、掴む。
そのまま。
少しだけ近づく。
(……なんで)
自分でもわからない。
レオが、小さく笑う。
「ほら」
「……なに」
「無理じゃないじゃん」
「……まだわからない」
でも。
離れなかった。




