第48話「その先の話」
共用試験、直前。
部屋。
机の上は、いつも以上に散らかっている。
参考書。
問題集。
付箋。
そして。
マグカップが、二つ。
ラーナは、黙って問題を解いている。
レオも、同じ。
会話は、ほとんどない。
でも。
空気は、静かに揃っている。
ページをめくる音。
ペンの音。
それだけで、十分だった。
「……ねぇ」
不意に。
レオが口を開く。
ラーナは、ペンを止めない。
「なに」
「……共用試験」
一拍。
「お互い無事、パスできたらさ」
そこで。
ラーナのペンが、止まる。
「……なに」
顔は上げない。
でも。
ちゃんと聞いてる。
レオが、少しだけ視線を落とす。
「……ちゃんと同棲しない?」
一瞬。
空気が止まる。
ラーナの思考も、止まる。
「……は?」
ゆっくり、顔を上げる。
レオは、いつも通りの顔。
でも。
ほんの少しだけ、真面目。
「……今と何が違うの」
ラーナが言う。
レオが、少しだけ笑う。
「それ、俺も思った」
一拍。
「でも」
「ラーナの家入り浸るのも、普通に申し訳ないし」
「……別に」
即答。
「いや、別にじゃない」
被せる。
「あと」
少しだけ、視線を巡らせる。
部屋を見る。
「……2人で生活するには、この部屋ちょっと狭いでしょ」
ラーナが、少しだけ黙る。
「……レオの私物が多いから」
「それな」
即答。
でも。
次の言葉は、少しだけ柔らかい。
「……だからさ」
一拍。
「もうちょっと広いとこで、一緒に住も?」
静かに落ちる。
ラーナは、何も言わない。
視線が、少しだけ揺れる。
机。
ノート。
マグカップ。
そして。
部屋。
(……今でも)
(ほぼ、そうだけど)
でも。
違う。
“ちゃんと”って言われた。
それは。
少しだけ、重い。
「……試験前に言うことじゃない」
やっと、出た言葉。
レオが、少しだけ笑う。
「だよな」
「……集中できなくなる」
「もうなってるじゃん」
「……うるさい」
でも。
否定しない。
ラーナが、少しだけ視線を落とす。
一拍。
「……考えとく」
小さく。
でも。
ちゃんと。
レオが、ほんの少しだけ目を細める。
「……うん」
それ以上は、言わない。
空気が戻る。
ラーナが、もう一度ペンを持つ。
でも。
さっきより、少しだけ遅い。
(……同棲)
頭の中に、残る。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
(……普通)
そう思ってる自分に。
少しだけ、引っかかる。
⸻
その横で。
レオは何も言わずに問題を解いている。
でも。
ペンの動きが、少しだけ軽い。
言った。
ちゃんと。
その事実だけで。
少しだけ、満足していた。
⸻
静かな部屋。
でも。
その中に。
少しだけ。
未来の話が、混ざっていた。




