第47話「いない方が変」
図書館。
静か。
ページをめくる音だけが、一定のリズムで流れる。
ラーナは、机に向かう。
参考書。
ノート。
ペン。
全部、揃ってる。
環境としては、完璧。
(……なのに)
ペンが止まる。
数分に一回。
集中が、切れる。
(……なんで)
問題は、難しくない。
むしろ、解ける。
でも。
続かない。
ふと。
隣を見る。
空席。
当たり前。
ここは図書館。
(……別に)
いつも一人でやってた。
問題ない。
なのに。
違和感が、消えない。
(……静かすぎる)
ページをめくる。
また止まる。
無意識に、スマホを見る。
通知、なし。
(……何してる)
ふと浮かぶ。
すぐに打ち消す。
(……集中しないと)
ペンを持つ。
書く。
止まる。
「……はあ」
小さく息を吐く。
そのとき。
スマホが震える。
レオ。
『いつ帰るの』
一瞬。
ラーナの動きが少し止まる。
『なんで』
すぐ返す。
既読がつくのが、早い。
『家いる』
一瞬。
思考が止まる。
(……は?)
『来てるの?』
『うん』
短い。
当たり前みたいに。
その一言で。
さっきまでの違和感が、全部繋がる。
(……いないからか)
妙に納得する。
数秒。
何も打たない。
でも。
次の瞬間。
⸻
『早く帰ってきて』
レオは送った画面を見て、自分で少し止まる。
(……は?)
自分で、自分に引っかかる。
でも。
既読がつく。
『わかった』
それだけ。
でも。
それだけで。
少しだけ、落ち着く。
⸻
(……帰る)
ラーナはノートを閉じる。
ペンをしまう。
立ち上がる。
理由は、はっきりしてる。
(……集中できないし)
それだけ。
それだけのはずなのに。
足は、少しだけ早い。
⸻
帰り道。
いつもより、少しだけ急ぐ。
(……別に)
理由をつける。
(……効率悪いから)
それだけ。
でも。
玄関の前に立ったとき。
少しだけ、呼吸が整う。
鍵を出す。
開ける。
中。
電気、ついてる。
ページをめくる音。
(……いる)
それだけで。
さっきまでの違和感が、全部消える。
ドアを閉める音。
レオが顔を上げる。
「……早」
「……うん」
短い返事。
そのまま中に入る。
自然に。
レオの隣に座る。
距離。
近い。
でも。
何も言わない。
ノートを開く。
ペンを持つ。
数秒後。
すっと、書ける。
(……普通)
さっきまでの詰まりが、嘘みたいに消える。
「……なに」
レオが、少しだけ見る。
「……別に」
いつもの返し。
「図書館は」
「……やめた」
「なんで」
一瞬。
ペンが止まる。
でも。
少しだけ考えて。
「……集中できなかった」
正直に言う。
レオが、少しだけ黙る。
「……ふーん」
それだけ。
でも。
口元が、ほんの少しだけ緩む。
ラーナは気づかない。
そのまま。
並んで勉強する。
会話は、ほとんどない。
でも。
ページは、進む。
時間も、進む。
⸻
ふと。
ラーナの手が、止まる。
そのまま。
ほんの少しだけ。
レオの服の裾に、触れる。
無意識。
でも。
離さない。
レオは、何も言わない。
ただ。
少しだけ、ペンを持つ手が止まる。
それから。
何事もなかったみたいに、また動く。
⸻
静かな部屋。
でも。
さっきの図書館より。
ずっと、集中できた。




