第46話「生活に混ざる」
四年。
空気が変わる。
講義。
実習。
そして——共用試験。
これに合格しないと臨床実習に進めない。
全部が、一気に重くなる。
「……無理」
ラーナが机に突っ伏す。
参考書。
ノート。
付箋。
全部、広がってる。
「まだ始まったばっかだろ」
後ろから声。
レオ。
当たり前みたいに、部屋にいる。
「……もう無理」
「はいはい」
軽く流しながら。
勝手に冷蔵庫を開ける。
お茶を出す。
「飲みな」
「……ん」
受け取る。
そのまま、一口。
(……いる)
ふと、思う。
当たり前みたいに。
レオがいる。
最初は。
“来る”だった。
今は。
“いる”。
⸻
「……帰らないの」
ラーナが言う。
「帰る理由ある?」
即答。
「……ないけど」
「じゃあいる」
当然みたいに言う。
(……意味わかんない)
でも。
何も言わない。
⸻
机に戻る。
問題を開く。
ペンを持つ。
数分後。
「……レオ」
「ん」
「ここ」
ノートを差し出す。
自然。
レオが横に座る。
距離が近い。
でも。
もう何も思わない。
「これ、逆」
「……あ」
「さっきも同じミスしてた」
「……してない」
「してた」
淡々と指摘される。
「……うるさい」
「事実」
でも。
ペンを持つ手が、止まらなくなる。
(……楽)
一人より。
明らかに。
⸻
夜。
時計。
23時過ぎ。
「……もうやめる」
ラーナが言う。
「早くない?」
「無理」
即答。
「……じゃあ寝な」
「レオは」
「もうちょいやる」
当たり前みたいに言う。
「……帰らないの」
「帰る理由ある?」
同じ返し。
ラーナが、少しだけ黙る。
「……じゃあ先寝る」
「どうぞ」
軽い。
でも。
数歩進んで。
止まる。
「……レオ」
「なに」
「……電気消して」
一拍。
レオが、少しだけ笑う。
「はいはい」
⸻
数分後。
ベッド。
ラーナは、目を閉じる。
でも。
完全には寝ない。
微かな灯り。
物音。
ページをめくる音。
ペンの音。
(……いる)
それだけで。
少し、安心する。
⸻
しばらくして。
ベッドが、少し沈む。
「……終わった」
「……ん」
ラーナは目を閉じたまま返す。
そのまま。
腕が、軽く触れる。
何も言わない。
でも。
少しだけ近い。
(……普通)
そう思う。
でも。
少しだけ、違う。
⸻
朝。
目を開ける。
横。
レオ。
寝てる。
(……いる)
当たり前みたいに。
ふと。
机を見る。
知らないペン。
参考書。
置きっぱなしのノート。
(……増えてる)
少しずつ。
レオのものが、増えてる。
でも。
違和感は、ない。
むしろ。
(……普通)
そう思う。
⸻
ラーナが、少しだけ体を起こす。
その動きで。
レオが目を開ける。
「……何時」
「……7時」
「……早」
そう言いながら。
また目を閉じる。
「……起きて」
「……やだ」
「遅刻する」
「……しない」
そのまま。
腕が伸びる。
ラーナの手首を、軽く引く。
距離が詰まる。
「……ちょっとだけ」
「……やだ」
「嘘」
即答。
ラーナは、少しだけ黙る。
でも。
抵抗は、しない。
(……まあいいか)
目を閉じる。
ほんの少しだけ。
時間を、延ばす。
⸻
忙しい。
余裕もない。
でも。
その中で。
当たり前みたいに。
隣にいる。
それが。
少しだけ。
全部を軽くしていた。




