第45話「離れてた分」
実習が始まって数日後。
実習は、容赦なく進む。
朝から夕方まで。
覚えること。
気を遣うこと。
ミスできない空気。
余裕なんて、ほとんどない。
⸻
ラーナ。
ロッカーでスマホを見る。
通知。
レオ。
数時間前。
(……また遅い)
少しだけ、眉が寄る。
でも。
(……仕方ない)
分かってる。
同じ状況。
自分も、返せてない。
それでも。
少しだけ、引っかかる。
⸻
一方。
レオ。
同じようにスマホを見る。
既読。
返事、なし。
(……忙しいよな)
分かってる。
でも。
(……でもさ)
ほんの少しだけ。
引っかかる。
⸻
夜。
電話。
「……もしもし」
「……おつかれ」
声は、いつも通り。
でも。
ほんの少しだけ、硬い。
「……今日どうだった」
「……普通」
「……そっちは」
「……普通」
同じやり取り。
でも。
前より、短い。
一拍。
「……ペアのやつ」
レオが言う。
「……なに」
「……慣れた?」
一瞬。
「……まあ」
短い返事。
でも。
それだけで。
(……慣れたんだ)
レオの中で、何かが引っかかる。
「……そっちは」
「……普通」
同じ返し。
でも。
その“普通”の中身が、見えない。
お互いに。
「……今日さ」
ラーナがぽつり。
「……一緒に回ってたら」
一瞬、止まる。
「……患者さんに変なこと言われた」
「……なんて?」
「……仲いいねって」
空気が止まる。
(……は?)
「……そうなんだ」
レオの声が、少しだけ低くなる。
「……違うって言ったけど」
「……そりゃそうだろ」
一拍。
「……レオは」
「なに」
「……どうなの」
一瞬、詰まる。
「……普通に話すだけ」
「……ふーん」
短い。
でも。
温度が、少し下がる。
(……なんだよそれ)
(……そっちだって)
言わない。
でも。
残る。
通話が終わる。
静か。
(……最悪)
同じことを、同時に思う。
⸻
数日後。
また電話。
「……この前ごめん」
レオが先に言う。
一瞬、間。
「……私も」
重なる。
少しだけ、空気が緩む。
「……なんか」
「……変だった」
「……うん」
短い会話。
でも。
それだけで戻る。
(……やっぱ無理)
(……離れるの)
同じことを思いながら。
残りの日数を、数える。
⸻
最終日。
夕方。
『終わった』
レオからの連絡。
『ラーナの家行っていい?』
少しだけ間。
『いいけど、疲れてないの』
『むしろ疲れ取りに行く』
一瞬。
ラーナの口元が、ほんの少しだけ緩む。
『いいよ』
でも。
ラーナの方が、終わるのが遅い。
レオは先に着く。
玄関前。
(……遅いな)
でも。
不思議と、イラつかない。
(……やっと会える)
それだけで、十分だった。
⸻
数十分後。
足音。
「……レオ」
ラーナ。
少しだけ息が上がってる。
「……ごめん……!」
珍しく、焦ってる。
「全然大丈夫」
そのまま。
引き寄せる。
抱きしめる。
一瞬。
ラーナが止まる。
でも。
すぐに、力が抜ける。
「……おつかれ」
「……うん」
そのまま。
少しだけ、長くなる。
離れない。
(……やっと)
「……レオ」
「なに」
ラーナが、少しだけ離れる。
「……これ」
手に、小さいもの。
差し出す。
「……何」
受け取る。
鍵。
一瞬。
理解が遅れる。
「……え」
「……合鍵」
ラーナが言う。
「……使っていい」
「いつでも」
静かに。
でも、まっすぐ。
一瞬。
レオの思考が止まる。
(……は?)
(……無理)
じわっと。
遅れてくる。
2週間。
離れてた時間。
我慢。
全部。
まとめて、来る。
「……ラーナ」
声が、少しだけ崩れる。
「……なに」
そのまま。
もう一度、抱き寄せる。
さっきより、強く。
顔、見せない。
「……ずるい」
「……何が」
「……タイミング」
ラーナが、少しだけ笑う気配。
でも。
何も言わない。
ただ。
そのまま。
背中に、手を回す。
静かに。
でも、確かに。
離れてた分。
埋めるみたいに。
2人は、しばらくそのままだった。
ほんとにこんな長くなる予定じゃなかったんです、、この2人が勝手に、、まだまだお付き合いください。




