第41話「ちゃんと守る」
数日後。
「今度、研究室で飲み会ある」
ラーナが言う。
一瞬。
レオの思考が止まる。
(……は?)
顔には出さない。
出さないけど。
(……最悪のやつ来た)
「……そう」
「うん」
いつも通り。
ラーナは特に気にしてない。
(……いや気にしろよ)
でも。
言えない。
研究室の付き合いは大事。
邪魔はしたくない。
「……ほんとに気をつけてよ」
ぽつり。
「……何を」
ラーナが首を傾ける。
「いろいろ」
雑。
でも本気。
「どこでやるの」
「駅前の店」
「何時に終わるの」
「たぶん八時くらい」
「……迎えに行く」
一瞬。
ラーナが止まる。
「……なんで」
純粋に不思議そう。
(……だろうな)
レオが小さくため息をつく。
「……とりあえず」
一拍。
「終わったら絶対連絡して」
「……わかった」
あっさり。
(……分かってないだろ)
でも。
それ以上は言わない。
⸻
当日。
夜。
大学近くのカフェ。
レオは一人、席に座っていた。
ノート。
資料。
PC。
課題を広げている。
(……進まない)
視線が、何度もスマホに落ちる。
時間。
19:42。
(……まだか)
ため息。
集中しようとする。
でも。
無理。
(……ちゃんとやってるよな)
頭に浮かぶ。
あの空間。
人。
距離。
酒。
(……無理だろ)
ペンを置く。
時計。
19:58。
(……そろそろだろ)
でも。
連絡、ない。
(……は?)
スマホを見る。
何も来てない。
(……なんで)
立ち上がる。
気づいたら。
もう動いてる。
⸻
店の前。
少し離れた場所で待つ。
(……来るの早すぎだろ)
自分で思う。
でも。
帰れない。
⸻
数分。
店の扉が開く。
ラーナが出てくる。
視線が合う。
「……来るの早」
ラーナが言う。
いつも通り。
「……連絡来ないから」
レオ。
「今しようと思ってた」
(ほんとかよ)
でも。
それどころじゃない。
そのとき。
後ろから、ぞろぞろと人が出てくる。
研究室のメンバー。
「あれ、ラーナ」
「その人は?」
一瞬。
空気が止まる。
ラーナが、少しだけレオを見る。
ほんの一瞬。
それから。
「……彼氏です」
静かに。
はっきり。
一瞬。
レオの思考が止まる。
(……は?)
「え、まじ?」
「そうなんだ!」
「え、初耳なんだけど!」
ざわつく。
「ああー、さっき言ってた人か!」
その一言で。
完全に理解する。
(……言ってた?)
顔が、緩みそうになる。
必死で抑える。
「ラーナとその彼氏、じゃあね〜」
「気をつけて帰ってね〜」
軽いノリで、みんな去っていく。
静かになる。
レオとラーナ。
2人だけ。
数秒。
「……彼氏?」
レオが言う。
「……そうだけど」
ラーナ。
何でもないみたいに。
「……言ってたの?」
「……聞かれたから」
少しだけ視線を逸らす。
(……無理)
「……ちゃんとしてるじゃん」
小さく。
「……約束したから」
ラーナ。
一拍。
「……他の人とは、距離置く」
まっすぐ。
レオが、少しだけ黙る。
(……やば)
嬉しい。
普通に。
でも。
それ以上に。
効く。
「……帰るか」
「うん」
並んで歩く。
距離は、自然に近い。
途中。
レオが、ふと手を伸ばす。
指を絡める。
ラーナは、何も言わない。
でも。
離さない。
そのまま。
ラーナの家まで。
今日は。
最初から最後まで。
ちゃんと守られていた。




