第40話「ちゃんと見えてる」
翌日。
講義室。
ラーナは、少し早めに席に座っていた。
前の方。
いつもの位置。
(……気まずい)
理由は、分かってる。
昨日。
思い出す。
距離。
言葉。
最後の空気。
(……最悪)
別に、何かしたわけじゃない。
でも。
“してないからこそ”残ってる。
中途半端な熱。
(……無理)
考えるのをやめる。
そのとき。
隣の席に、荷物が置かれる。
「……ラーナ」
「……レオ」
来た。
当たり前みたいに。
座る。
距離は、いつも通り。
でも。
空気が、少し違う。
「……おはよ」
「おはよ」
短い。
沈黙。
(……気まず)
お互い、分かってる。
でも。
どっちも触れない。
数秒。
「……昨日」
ラーナが、ぽつり。
「なに」
レオは前を向いたまま。
「……別に」
言いかけて、やめる。
(……何言ってんの)
そのとき。
後ろから声。
「あ、レオくん」
昨日の女の子。
「……隣、いいかな?」
一瞬。
空気が止まる。
ラーナの視線が、ほんの少しだけ動く。
レオは、振り向く。
ほんの一瞬だけ考えて。
すぐに答える。
「……ごめん」
レオが、一瞬だけ隣を見る。
「彼女といるから」
静かに。
でも、はっきり。
女の子が、少しだけ驚いて。
「……あ、そっか。ごめんね」
小さく笑って、離れていく。
空気が戻る。
数秒。
(……彼女)
ラーナの思考が、少し止まる。
隣。
レオは、何事もなかったみたいに前を向いてる。
でも。
さっきの一言が、残る。
(……ちゃんと)
胸の奥が、少しだけ緩む。
「……レオ」
「なに」
視線は前のまま。
「……今の」
「うん」
一拍。
「……ほら」
少しだけ、声が低くなる。
「ちゃんと距離置いてるでしょ」
そのまま。
横目で、ちらっと見る。
ラーナと目が合う。
逃げない。
(……あ)
詰められてる。
昨日の続きみたいに。
「……うん」
小さく。
「……私も」
少しだけ間を置いて。
「……気をつける」
正直に。
レオが、少しだけ目を細める。
「……ほんとに?」
「ほんと」
即答。
そのまま。
ほんの少しだけ。
ラーナが近づく。
肩が、軽く触れる。
「……それならいい」
レオが小さく言う。
⸻
講義が始まる。
前を向く。
でも。
距離は、そのまま。
触れてるか、触れてないかの。
ギリギリ。
昨日より。
少しだけ。
ちゃんとした距離で。
並んでいた。




