第39話「同じことしてる」
帰り道。
少し先。
レオ。
——と、女の子。
同じ研究室。
同学年。
距離は普通。
でも。
空気が、柔らかい。
女の子が、少し笑う。
レオも、普通に返す。
(……へえ)
足が止まる。
でも、そのまま歩く。
「……レオ」
呼ぶ。
「……ラーナ?」
振り向く。
女の子も、こっちを見る。
「……お疲れ」
「お疲れ」
短い。
視線が、一瞬だけ横に流れる。
女の子。
すぐ戻す。
「……じゃあ俺こっちだから」
「うん、またね」
やわらかい声。
少しだけ残る空気。
(……何それ)
胸の奥が、ざわつく。
並んで歩く。
沈黙。
「……どうしたの」
レオ。
「……レオも同じだった」
ぽつり。
「……何が?」
「最近、さっきの子と仲良いよね」
「ああ」
あっさり。
「研究室一緒の子」
「そう」
「……私には」
一拍。
「先輩と話してるの気に食わないって言ってたのに」
空気が張る。
「……俺も、研究の話しかしてないよ」
「ほぼ」
「……“ほぼ”って何」
「雑談くらいするだろ」
「私はしてない」
被せる。
止まる。
向き合う。
「……楽しそうだった」
「……ラーナ」
「なに」
「それ、嫉妬してるでしょ」
「してない」
即答。
でも早い。
「してるって」
「してない」
強くなる。
「……じゃあ何」
「……同じことしてると思っただけ」
「……俺は」
一拍。
「ラーナと違って距離考えてるけど」
「……は?」
空気が一気に冷える。
「……何それ」
沈黙。
そのまま。
歩き出す。
気づけば。
ラーナの家の前。
止まる。
「……じゃあ」
レオが言いかける。
その瞬間——
袖を、掴まれる。
「……なに」
「……別に」
でも。
離さない。
鍵を開ける。
ドアが開く。
「……入る?」
ラーナ。
ぶっきらぼうに。
一瞬。
「……入る」
即答。
⸻
家の中。
静か。
ラーナの部屋。
ドアが閉まる。
その音が、やけに響く。
「……ラーナ」
呼ぶ。
でも。
その前に。
手首を引く。
距離が、一気に詰まる。
「……さっきの子」
「……ん?」
「……レオのこと、好きそうだった」
一瞬で。
全部、崩れる。
「……それ、言う?」
低い。
「……別に」
でも。
握る手は強い。
(……無理)
「……ほんと分かってない?」
「……分かんない」
正直。
その瞬間。
限界。
引き寄せる。
距離、ゼロ。
唇が、重なる。
強い。
抑えない。
完全に、崩れてる。
ラーナの指が、服を掴む。
離れる。
でも、近いまま。
「……俺の前で」
一拍。
「他のやつの話すんな」
低く。
「……レオも」
「しない」
即答。
そのまま。
額が触れる距離。
「……だから」
「もういいでしょ」
ラーナが、小さく息を吐く。
そして。
ほんの少しだけ。
自分から、近づく。
完全に。
同じ距離になる。




