表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/76

第38話「知らない距離」

 三年。


 研究室配属が始まった。


 レオとラーナは、別々。


 仕方ない。


 分かってる。


 でも。


 会う時間は、確実に減った。





 講義も減って。


 生活リズムもズレる。


 前みたいに。


 当たり前に隣にいる時間は、なくなった。



(……まあ、しょうがない)



 そう思っていた。


 最初は。





 ある日。


 研究棟の廊下。


 レオは資料を取りに来ていた。


 そのとき。


 少し先に。


 見慣れた背中。


 ラーナ。


 ——と。


 知らない男。


 白衣。


 一つ上。


 距離が、近い。


 何か話している。


 ラーナが、口を開く。


 珍しく。


 自分から。



(……は?)



 レオの足が、止まる。


 ラーナは、あまり自分から話しかけない。


 必要最低限。


 それだけ。


 なのに。


 今。


 明らかに、自分から話してる。



(……何それ)



 少しだけ。


 胸の奥がざわつく。


 男が何か言う。


 ラーナが、短く返す。


 でも。


 会話は続いている。



(……続くんだ)



 それだけで。


 妙に引っかかる。


 ラーナが、少しだけ身を乗り出す。


 資料を覗き込む。


 距離が、近づく。



(……近い)



 気づいた瞬間。


 自分でも呆れる。



(……何やってんだ俺)



 別に。


 ただの研究の話。


 分かってる。


 でも。


 目が離れない。


 そのまま。


 見てしまう。





 ラーナが、少しだけ笑う。


 ほんの一瞬。


 でも。


 確かに。



(……は?)



 思考が止まる。



(……何それ)



 自分には。


 普通に見せる顔。


 でも。


 “あの距離”で見ると。


 違って見える。



(……意味わかんない)



 視線を外す。


 無理やり。



(……別に)



 関係ない。


 そう思って。


 その場を離れる。


 でも。


 頭から、離れない。





 その後も。


 何度か見かける。


 同じ男。


 同じ距離。


 同じ空気。


 ラーナは、変わらない。


 淡々としてる。


 でも。


 会話は続いてる。



(……なんで)



 自分の時と、何が違う。


 分からない。


 でも。


 気になる。





 連絡も、減った。


 忙しいのは分かってる。


 自分も同じ。


 でも。


 ふとした瞬間に思う。



(……あいつとは話してんのに)



 そこで。


 思考を止める。



(……だる)



 自分で分かってる。


 これ。


 完全に。


 ——嫉妬。





 数日後。


 やっと、帰りが重なる。


 校門。


 ラーナがいる。



「……ラーナ」


「レオ」



 いつも通り。


 変わらない。



「……久しぶり」


「そうでもない」



 即答。



(……そうか?)



 少しだけ引っかかる。


 一緒に歩く。


 並ぶ。


 距離は、いつも通り。


 でも。


 どこか、違う。



「……研究室どう」



 レオが聞く。



「普通」


「そう」



 短い。


 いつも通り。


 なのに。


 足りない。



「……あのさ」


「なに」



 少しだけ、迷う。


 でも。


 聞く。



「……最近、よく一緒にいるやついるよね」



 ラーナが、少しだけ首を傾ける。



「誰」



(……覚えてないのかよ)



 レオの眉がわずかに寄る。



「……同じ研究室の、先輩?」


「ああ」



 あっさり。



「……話すよ」


「……なんで」



 出る。


 思ったより、低い声。


 ラーナが少しだけ止まる。



「……研究の話」


「……それだけ?」



 被せる。


 一瞬。


 沈黙。



「……それ以外ある?」



 まっすぐ。



(……ないのは分かってる)



 分かってる。


 でも。


 止まらない。



「……結構話してるよね」


「必要だから」



 正論。


 何も言えない。


 でも。


 消えない。



「……ふーん」



 それだけ。


 そこで止める。


 これ以上言うと。


 ただの面倒なやつになる。


 分かってる。


 沈黙。


 数歩。



「……レオ」


「なに」


「なんか変」



(……バレるの早)



「……別に」


「別にじゃない」



 即返し。


 止まる。


 ラーナが、こっちを見る。



「……なに」



 まっすぐ。


 逃げない。


 レオが、少しだけ目を逸らす。


 でも。


 すぐ戻す。



「……別に」



 一拍。



「……ちょっと気に入らないだけ」


「なにが」


「……あいつと話してんの」



 そのまま。


 言う。


 一瞬。


 空気が止まる。


 ラーナの目が、少しだけ変わる。


 理解する。



「……嫉妬?」



 ぽつり。



「……そうだけど」



 即答。


 隠さない。


 でも。


 不機嫌。


 ラーナが、少しだけ黙る。


 それから。


 ほんの少しだけ、近づく。


 手が触れる。



「……レオ」


「なに」


「私、レオとしかこういう距離ならないけど」



 一瞬。


 思考が止まる。



「……は?」


「研究の話してるだけ」



 淡々と。



「……それ以外ない」



 間。


 レオが、少しだけ息を吐く。



(……分かってる)



 分かってる。


 でも。



「……それでも嫌」



 ぽつり。


 ラーナが、少しだけ目を細める。



「……面倒」


「知ってる」



 即。


 でも。


 そのまま。


 手を取る。


 指を絡める。



「……ちょっとだけ我慢して」


「……なんで」


「今、無理」



 一拍。



「触んないともっと無理」



 ラーナが、少しだけ止まる。


 それから。


 小さく息を吐く。



「……勝手」


「うん」



 でも。


 手は、離さない。


 距離は、戻る。


 むしろ。


 少しだけ、強くなる。


 知らない距離があった分だけ。


 取り戻すみたいに。


 近づいていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ