第37話 「足りない理由」
最近。
レオは、距離を取っている。
ほんの少し。
でも。
確実に。
隣には座る。
話もする。
でも。
触れない。
(……なんで)
ラーナは、何度も思う。
前は。
もっと近かった。
自然に。
当たり前みたいに。
今は。
意識してるみたいに、距離がある。
たしかに、
少しずつ距離を戻すという話はした。
それにしては遠い。
「ラーナ」
「なに」
いつも通りの会話。
でも。
それだけ。
それ以上、来ない。
(……こんなだっけ)
少しだけ、引っかかる。
(……まあいいか)
そうこうしているうちに、テスト前。
集中できる。
ちょうどいい。
そう思うことにする。
でも。
(……なんか違う)
消えない違和感。
講義中。
前の席。
レオ。
前なら。
机の下で、指を絡めてきた。
今は、ない。
完全に。
(……やらないんだ)
ぼんやり思う。
⸻
放課後。
「じゃあまた明日」
それだけで、帰る。
当たり前みたいに。
前なら。
“家来る?”って聞いてた。
即答で“行く”って言ってた。
(……聞きもしないんだ)
小さく息を吐く。
⸻
数日。
同じ状態。
(……別に)
問題はない。
勉強は進む。
集中もできる。
でも。
(……なんか足りない)
理由は、分かってる。
でも。
言葉にしたくない。
テスト当日。
ラーナは、いつも通り解く。
集中。
完璧。
——のはずだった。
途中で、ほんの一瞬。
(……レオ)
よぎる。
それだけで。
わずかに、思考がズレる。
(……最悪)
すぐに戻す。
でも。
ほんの少しだけ、遅れる。
⸻
結果。
「今回のトップは満点でレオ」
教室がざわつく。
ラーナは、答案を見る。
2点足りない。
——2位。
(……は?)
一瞬。
思考が止まる。
(……なんで)
分かってる。
集中が、一瞬切れた。
それだけ。
でも。
(……最悪)
⸻
放課後。
教室。
ラーナは、席に座ったまま。
答案を見ている。
動かない。
「ラーナ」
レオ。
「……なに」
「今回、惜しかったな」
その瞬間。
ラーナの表情が、少しだけ変わる。
(……あ)
軽く言う。
でも。
その一言で。
——切れる。
「……なんで」
ぽつり。
「なんで、急に距離置いたの」
一気に出る。
レオが止まる。
「……は?」
「なんで」
繰り返す。
「なんで来ないの」
止まらない。
「なんで普通なの」
レオが、少しだけ言葉を失う。
「……別に」
とりあえず返す。
「別にじゃない」
「……なんで」
少しだけ、声が落ちる。
「……意味わかんない」
一瞬。
沈黙。
ラーナが、立ち上がる。
一歩。
近づく。
そのまま——
抱きつく。
ぎゅっと。
一瞬。
レオの思考が止まる。
(……は?)
「……ラーナ?」
「……足りなかった」
ぽつり。
完全に、止まる。
「……何が」
かろうじて出す。
「……レオ」
即答。
数秒。
完全に、思考が止まる。
(……無理)
「……それ」
低く。
「……言う?」
ラーナは、離れない。
むしろ、少しだけ強くなる。
「……だって」
「……なんか足りなかった」
正直。
(……終わりだろこれ)
レオが、ゆっくり息を吐く。
でも。
手は、自然に動く。
ラーナの背中に回る。
引き寄せる。
「……ごめん」
小さく。
「距離置いてたの、俺の都合」
「……なんで」
「……近づくと無理だった」
正直すぎる。
ラーナが、少しだけ顔を上げる。
「……何それ」
「……ほんとに」
「触れたら止まんなくなるから」
ラーナが、少しだけ黙る。
でも。
次の瞬間。
また、ぎゅっとする。
「……それでもいい」
ぽつり。
(……無理)
レオが、目を閉じる。
「……ほんとやめろって」
小さく。
でも。
もう、離さない。
距離は、完全に戻っていた。




