第36話「取り戻す距離」
テスト返却日。
「今回、満点は一人だけだ」
教師の声。
教室が、少しざわつく。
レオは、軽く答案をめくる。
——満点。
いつも通り。
(……まあ)
特に驚きはない。
「で、その上で」
教師が続ける。
「記述で加点入って、トップはラーナ」
一瞬。
空気が止まる。
「は?」
誰かが小さく声を漏らす。
レオの手も、止まる。
(……は?)
前を見る。
ラーナ。
いつも通りの顔。
何も変わらない。
でも。
(……マジかよ)
答案を返されるラーナ。
ちらっと見える。
満点。
+αの赤ペン。
(……やりやがった)
口元が、少しだけ緩む。
⸻
放課後。
ラーナは、教室に残っている。
ノートをまとめてる。
いつも通り。
でも。
レオは、迷わず近づく。
「ラーナ」
「なに」
顔を上げる。
一瞬。
距離が戻ったみたいな錯覚。
でも。
まだ少しだけ、空いてる。
レオが、手を伸ばす。
そのまま——
軽く、頭に触れる。
ぽん、と。
「すげーじゃん」
素直に。
一瞬。
ラーナが止まる。
でも。
すぐに。
「……当たり前」
いつもの調子。
でも。
ほんの少しだけ。
口元が緩んでる。
(……分かりやす)
レオが、少しだけ笑う。
「ちゃんとやったな」
「やった」
短い。
「1位、おめでと」
「……うん」
今度は、少しだけ素直。
一拍。
レオが、少しだけ距離を詰める。
「……で?」
「なに」
「もういいよね」
一瞬。
ラーナが止まる。
「……なにが」
分かってるのに、とぼける。
「距離」
はっきり。
沈黙。
ラーナが、少しだけ視線を逸らす。
「……ちょっとね」
「ちょっとはやだ」
即答。
一瞬。
ラーナが、少しだけ目を細める。
「……でも」
「また落ちたらやだ」
ちゃんと本音。
レオが、少しだけ黙る。
(……そこか)
理解する。
それでも。
「……慣れてよ」
少しだけ、声を落とす。
「……なにに」
「これ」
一歩、近づく。
さっきより、近い距離。
「ちょっとずつでいいから」
ラーナが、わずかに息を止める。
「……無理だったら?」
「そのときはまた離れればいい」
「……簡単に言う」
「簡単じゃないけど」
一拍。
「このままは無理」
はっきり。
ラーナが、少しだけ黙る。
考える。
今回のテスト。
結果。
集中。
でも。
(……レオ)
視線を上げる。
レオ。
真っ直ぐ見てる。
逃げない。
「……少しだけ」
小さく。
「……戻す」
許可。
レオの表情が、わずかに緩む。
「どのくらい」
「……今より近いくらい」
「曖昧」
「それでいい」
一瞬。
沈黙。
レオが、手を伸ばす。
今度は。
少しだけ迷ってから。
ラーナの手に、軽く触れる。
絡めない。
でも。
触れるだけでも、十分近い。
ラーナは、振り払わない。
少しだけ。
指が動く。
ほんの少しだけ、触れ返す。
(……これでいい)
レオが、小さく息を吐く。
「……ありがと」
ぼそっと。
「……別に」
ラーナが返す。
でも。
距離は、そのまま。
前より近くて。
でも。
少しだけ慎重なまま。
それでも。
ちゃんと、戻り始めていた。




