第34話「優先順位」
テスト返却日。
教室。
「今回ちょっと平均低いからなー」
教授の声。
答案が配られる。
ラーナは、静かにそれを受け取る。
開く。
視線を落とす。
(……)
一瞬。
止まる。
点数。
悪くはない。
でも。
(……落ちてる)
明確に。
いつもより。
理由は、分かってる。
考えるまでもない。
(……集中できてない)
講義中。
ノート。
頭に入ってない。
原因。
(……レオ)
一瞬、視線を横に向ける。
レオ。
普通に答案見てる。
何も知らない顔。
(……別に)
レオが悪いわけじゃない。
分かってる。
でも。
このままは、まずい。
静かに、答案を閉じる。
何も言わない。
⸻
放課後。
いつもなら。
自然に一緒に帰る。
流れで。
でも。
ラーナは、席を立つ。
レオを見ない。
そのまま、教室を出る。
「……え?」
レオが、少し遅れて気づく。
(……今の何)
違和感。
明らかに。
⸻
次の日。
講義中。
ラーナは、前の席にいる。
いつもは隣。
でも今日は違う。
(……は?)
レオの眉が寄る。
⸻
休み時間。
「ラーナ」
声をかける。
「なに」
振り返る。
普通の顔。
でも。
距離がある。
「なんで前行ったの」
「……なんとなく」
即答。
「嘘」
被せる。
「……嘘じゃない」
視線は逸らしたまま。
レオが、少しだけ黙る。
「……なんかあった?」
一瞬。
ラーナが止まる。
「……別に」
「別にじゃないだろ」
低く。
「……ほんとに何もない」
逃げる。
明らかに。
(……おかしい)
そのまま。
会話が切れる。
⸻
さらに数日。
距離は、そのまま。
一緒に帰らない。
講義中も隣にいない。
触れない。
(……なんで)
レオの中で、不安が膨らむ。
(……何した)
思い返す。
でも。
決定的なものはない。
(……いや)
一つだけ、引っかかる。
テスト。
ラーナの点数。
ちらっと見えた。
いつもより、低い。
(……まさか)
⸻
放課後。
「ラーナ」
今度は、逃がさない。
腕を掴む。
軽く。
でも確実に。
「……なに」
止まる。
「話ある」
そのまま。
人の少ない場所へ。
⸻
「……どうしたの」
まっすぐ聞く。
「……何もない」
「嘘」
一歩、近づく。
「ここ数日、明らかに変だろ」
「……気のせい」
「気のせいじゃない」
被せる。
逃がさない。
「……テスト」
ぽつりと、レオが言う。
一瞬。
ラーナの動きが止まる。
(……当たり)
「……点数、落ちてたよな」
沈黙。
「……それと関係ある?」
ラーナが、何も言わない。
それが、答え。
「……俺のせい?」
一瞬。
空気が止まる。
「……違う」
すぐ否定。
でも。
少しだけ遅い。
「違わないだろ」
低く。
「……違う」
「じゃあなんで避けてんの」
ラーナが、黙る。
視線を逸らす。
数秒。
「……」
「……ラーナ」
名前を呼ぶ。
少しだけ、強く。
「……集中できない」
ぽつり。
やっと出た、本音。
「……講義中」
「……気になるから」
レオの思考が、一瞬止まる。
(……は?)
「……なにが」
「……レオ」
小さく。
それだけで、十分だった。
(……まじかよ)
数秒。
沈黙。
レオが、少しだけ息を吐く。
「……それで避けてたの」
「……うん」
小さく。
「……言えよ」
本音。
「……言えない」
即答。
「なんで」
「……レオのせいみたいになるから」
一瞬。
レオの目が変わる。
(……それか)
「……で?」
少しだけ声を落とす。
「どうしたいの」
一拍。
「……次のテストまで」
小さく。
「……距離、置きたい」
はっきり。
沈黙。
レオが、ラーナを見る。
まっすぐ。
(……本気だ)
「……テスト終わるまで」
短い。
でも。
十分長い。
「……分かった」
静かに。
ラーナが、少しだけ目を上げる。
「……いいの」
「よくはないけど」
「……しょうがないだろ」
本音。
少しだけ。
空気が柔らぐ。
でも。
距離は、そのまま。
「……じゃあ」
ラーナが言う。
「……しばらく、話しかけない」
「いやそれは極端」
一瞬だけ、いつものテンポに戻る。
でも。
すぐに戻る静けさ。
「……ちゃんとやれよ」
レオが言う。
「……うん」
「次、落としたら許さない」
「……うん」
短いやり取り。
それで。
一旦、終わる。
でも。
距離は。
ちゃんと、できてしまった。




