第3話「数点差」
――結果発表。
教室の空気が、わずかに張り詰める。
「今回のテスト、上位からいくぞー」
軽い調子の声。
でも、全員の意識が前に集まる。
「1位――レオ・ウィーザス、満点」
ざわっと空気が揺れる。
「満点やばくね?」
「やっぱりか」
「今回難しかったのに?」
「2位――ラーナ・ソルフェーズ」
一瞬だけ、間が落ちる。
「え、僅差じゃない?」
「ほぼ同点でしょ」
「点差、3点」
静かに、確定する。
ラーナは、紙に視線を落とす。
(……3点)
小さい。
でも。
(……埋まらない)
それだけが、残る。
周囲の声は遠い。
「レオすご」
「ラーナも普通にやばいって」
評価なんてどうでもいい。
(……違う)
思考だけが、研ぎ澄まされる。
(問題じゃない)
知識量は、ほぼ並んでいる。
(じゃあ、どこで)
浮かぶのは、実習のときの一瞬。
――視線の置き方。
「ねえ」
すぐ横で、軽い声。
顔を上げる。
近い。
思ったより。
「惜しかったね」
レオが、少しだけ屈んで視線を合わせている。
「あと3点」
笑ってる。
でも。
逃がさない距離。
「……別に」
短く返す。
「ふーん」
レオの目が、わずかに細くなる。
「悔しいでしょ」
一瞬。
呼吸が、止まる。
「……」
答えない。
「出てるよ」
低く、落ちる声。
「今」
さらに一歩。
「顔」
近い。
逃げ場がない。
「……うるさい」
視線を逸らす。
でも。
追ってくる。
「いいじゃん」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「悔しいの」
「……違う」
即答。
「じゃあ何」
間を与えない。
「……」
言葉が詰まる。
「ほら」
レオが、ほんの少しだけ首を傾ける。
「考えてる顔」
図星。
「……今回」
ラーナは、ゆっくり口を開く。
「知識の差じゃない」
レオの視線が、変わる。
“遊び”が消える。
「……へえ」
ほんの少し、低くなる。
「じゃあ?」
一拍。
「……見てる場所」
空気が、静かに張る。
レオが、笑う。
今度は、さっきまでと違う。
「……当たり」
そのまま。
さらに距離を詰める。
「それさ」
声が落ちる。
「気づけた時点で、半分勝ってるよ」
「……は?」
思わず顔を上げる。
近い。
本当に。
「普通、気づかないから」
視線を外さないまま。
「“運がよかった”で終わる」
「……」
言い返せない。
でも。
(……こいつ)
ちゃんと見てる。
全部。
「ねえ」
レオが、少しだけ声を落とす。
「次、どうする?」
「……何が」
「そのまま来る?」
一拍。
「それとも」
視線が、刺さる。
「上、取りにくる?」
心臓が、跳ねる。
「……取る」
即答。
「いいね」
レオは、すぐ笑う。
「じゃあさ」
ほんの少しだけ、顔を寄せる。
「ちゃんと見てよ」
「……何を」
「俺のこと」
一瞬。
意味が、ずれる。
「どうやってやってるか」
軽く付け足す。
でも。
距離は、そのまま。
「……」
ラーナは動かない。
動けない。
(……見るわけない)
そう思うのに。
(……でも)
あの“差”は、確実にそこにある。
「……勝つ」
小さく言う。
「うん」
レオが頷く。
「楽しみにしてる」
すっと距離が離れる。
さっきまでの圧が、嘘みたいに。
もう、いつもの軽さに戻ってる。
そのまま、人の輪の中に入っていく。
笑ってる。
普通に。
何もなかったみたいに。
ラーナは、その背中を見る。
(……あいつ)
苛立ち。
でも。
(……違う)
はっきり分かる。
(同じだ)
あの余裕は、才能じゃない。
(積んでる)
自分と同じように。
静かに息を吐く。
(……負けない)
でもそれは。
さっきまでとは違う。
(……知る)
まずは。
(あいつを)
その思考に至った時点で。
——もう、無関心ではいられなかった。




