第29話「隠しきれない」
帰り道。
さっきまでのざわつきが、まだ少し残っている。
「……バレたね」
隣で、レオが軽く言う。
どこか楽しそうに。
「レオのせい」
即答。
「いやいや」
肩をすくめる気配。
「どう見てもでしょ」
「どこが」
「全部」
さらっと言われて、ラーナは少しだけ言葉に詰まる。
「……普通だったけど」
「無理あるって」
笑いを含んだ声。
横を見ると、明らかに機嫌がいい。
「……なんでそんな嬉しそうなの」
「別に」
「ある」
「ない」
「ある」
即答で被せる。
一瞬、間。
レオが少しだけ視線を逸らす。
「……めっちゃ機嫌いいじゃん」
「……普通」
「嘘」
ラーナが言い切ると、
レオは、ほんの一瞬だけ黙って——
「……だって」
小さく、落とす。
「これで他のやつに牽制になるじゃん」
一拍。
ラーナの思考が、止まる。
「……は?」
「いや、だってさ」
いつもの軽い調子に戻る。
「今日のやつら、絶対勘づいてるし」
「だから?」
「近づいてこなくなる」
あっさり。
当然みたいに。
「……何それ」
「便利でしょ」
「……性格悪」
「知ってる」
全然悪びれない。
むしろ少しだけ笑ってる。
「……別に、そんなのなくても来ないし」
「来るでしょ」
「来ない」
「来るって」
一拍。
「ラーナ普通にかわいいから、狙ってるやついるし」
さらっと。
なんでもないみたいに言う。
ラーナの思考が、一瞬止まる。
「……は?」
数秒遅れて。
「……急に何」
「気づいてないの?」
「……意味わかんない」
「いや分かるでしょ」
軽いまま。
でも、視線はまっすぐ。
「今日もいたじゃん」
「……誰」
「この前の飲み会で、“面白いね”とか言ってたやつ」
一瞬、思い出す。
あの男子。
「……別に普通でしょ」
「普通じゃない」
即答。
「距離近かったし」
「気のせい」
「気のせいじゃない」
食い気味。
ラーナが、わずかに眉を寄せる。
「……何それ」
「事実」
「……めんどくさ」
「ラーナが鈍いだけ」
「鈍くない」
「鈍い」
少しだけ沈黙。
そのあと、
「……だから」
レオが、少しだけ声を落とす。
「バレといた方が楽」
さっきの話に戻る。
でも。
今度は、少しだけ本音が混じってる。
「……ラーナ」
「なに」
「さっきの」
「どれ」
「“彼女”ってやつ」
一瞬。
ラーナの耳が、少しだけ赤くなる。
「嫌だった?」
「……別に」
少しだけ遅れて返す。
でも。
否定は、しない。
レオの口元が、わずかに緩む。
「じゃあいいじゃん」
「……よくない」
「なんで」
「……なんか」
言葉を探して、
「……恥ずかしい」
小さく落とす。
一瞬、レオが固まる。
ラーナが視線を逸らした拍子に、髪がさらりと揺れる。
耳元。
小さなピアスが、街灯の光を反射した。
一瞬だけ、視線が止まる。
(……そういうのずるい)
すぐに、
「……何それ」
低く笑う。
「今それ言う?」
「言う」
ラーナはそっぽを向く。
「……うるさい」
「いや、無理でしょ」
「なにが」
「今のは無理」
楽しそうに言う。
さっきまでの機嫌の良さが、そのまま残ってる。
「……ほんとにやだ」
「じゃあもう言わない?」
「言うでしょ」
「言うね」
即答。
ラーナが、わずかに睨む。
でも。
そのまま。
歩きながら。
自然に。
手が、触れる。
一瞬。
どっちも引かない。
離す理由も、ないみたいに。
ほんの少しだけ、指が絡む。
「……なに」
「別に」
「ある」
「ない」
さっきと同じやり取り。
でも。
今度は、手が離れない。
レオが、小さく息を吐く。
「……ほんと、分かりやすいよね」
「どっちが」
「両方」
「……意味わかんない」
「いい意味」
「怪しい」
くすっと、笑う気配。
そのまま。
並んで歩く。
距離は、もう隠せないまま。
むしろ。
少しだけ、誇るみたいに。




