第28話「バレてないつもり」
講義室。
ざわつく空気の中。
ラーナは、いつも通り前の席に座っていた。
ノートを開く。
ペンを持つ。
準備は完璧。
「おはよ」
横から声。
レオ。
当たり前みたいに隣に座る。
「……おはよ」
短く返す。
——そのとき。
「ねえ」
後ろから、小声。
振り返ると、同じ班の女子。
「距離、近くない?」
一瞬。
ラーナの手が止まる。
「……普通」
即答。
レオが横で小さく笑う。
「普通らしいよ」
「うるさい」
軽く返す。
でも。
肩は触れている。
いつも通り。
「いやいやいや」
女子が笑う。
「それで普通は無理あるって」
そのとき。
「お前らさ」
前の席の男子が振り返る。
「付き合ってんの?」
一瞬。
「……は?」
「……いや」
反射で返した瞬間。
周りがざわつく。
「いや今の逆に怪しいだろ」
「むしろ肯定じゃん」
「違うって」
ラーナが少し強めに言う。
「ただ隣にいるだけ」
「その“ただ”の距離じゃないって」
女子が突っ込む。
そして。
「あ、そういえばさ」
別の男子が思い出したみたいに言う。
「この前の飲み会」
一瞬。
ラーナの指が止まる。
「途中で2人ともいなくなってなかった?」
静かに。
でも、しっかり届く声。
「……は?」
ラーナがゆっくり振り返る。
「気づいてなかったと思ってた?」
にやっと笑う。
「普通にバレてたよ」
周りが一気にざわつく。
「え、そうなの?」
「途中で消えたよね」
「しかも同じタイミングで」
「いやもうそれ確定じゃん」
「違う」
ラーナが即答する。
でも。
ほんの少しだけ、遅い。
「違わないでしょ」
女子が笑う。
「そのあと戻ってこなかったし」
「どこ行ってたの?」
完全に詰められる。
「……別に」
ラーナの声が少し低くなる。
横で。
レオが、楽しそうに笑う。
「まあ、いろいろ」
「いろいろって何」
「詳しく」
「言うわけないだろ」
軽く流す。
その余裕が、余計に怪しい。
「ほらやっぱり!」
「はい確定ー!」
「ごちそうさまですー!」
「うるさい」
ラーナが低く言う。
でも。
耳が、少し赤い。
レオが横目でそれを見る。
(……わかりやす)
「ほら」
小さく。
「バレてる」
「バレてない」
「バレてるって」
「バレてない」
即答。
でも。
机の下。
レオの指が、軽く触れる。
ラーナの指先に。
一瞬。
止まる。
(……また)
ちらっと横を見る。
レオは前を見たまま。
何もしてない顔。
でも。
もう一度。
軽く触れる。
なぞるみたいに。
「……やめて」
小さく。
「なにが」
「今の」
「何もしてないけど」
「してる」
「証拠は?」
「……」
言い返せない。
そのとき。
後ろから、ぼそっと。
「いやそれも込みで全部アウトだからね」
女子の声。
ラーナが固まる。
「……は?」
「今の見えてるから」
にこにこしている。
「普通に触ってたでしょ」
「触ってない」
「触ってた」
即答される。
レオが、楽しそうに笑う。
「バレてるじゃん」
「……うるさい」
でも。
否定が弱い。
レオが、横目でラーナを見る。
耳まで赤い。
(……もう隠せてないだろ)
そのまま。
ぽつりと。
「彼女だし」
一瞬。
完全に静まる。
ラーナの動きが止まる。
「……は?」
ゆっくり振り返る。
レオは普通の顔。
「何その顔」
「……今の何」
「事実」
あっさり。
ラーナの耳が、一気に赤くなる。
「……言う必要ないでしょ」
「あるだろ」
「ない」
「ある」
即答。
周りが完全に盛り上がる。
「はい認めましたー!」
「ごちそうさまでーす!」
「いいねえ!」
「うるさい」
ラーナが低く言う。
でも。
もう、否定しない。
できない。
そのまま。
机の下。
今度は、ラーナの方から。
ほんの少しだけ。
指先を、触れる。
一瞬だけ。
でも、確かに。
レオが、少しだけ目を細める。
(……はいはい)
(もう完全にそうじゃん)
教室の空気は、完全にそれで埋まっていた。




