第24話「逃がさない」
廊下。
「……レオ」
声が、出る。
自分でも驚くくらい、まっすぐに。
レオの足が止まる。
振り返る。
少しだけ、驚いた顔。
「……なに?」
いつもの調子。
でも。
どこか距離がある。
ラーナは、そのまま近づく。
逃がさないように。
「話ある」
「ごめん、今日用事ある」
「10分だけ」
「……」
いつかのやりとりと同じ。
でも立場は逆。
「お願い」
「……わかったよ」
レオは降参したみたいに小さくため息をつく。
2人は空き教室に入った。
沈黙。
「昨日の」
「何だったの」
ラーナが切り出す。
はっきりと。
レオの視線が、揺れる。
「……さっき言ったじゃん?」
「忘れていいって」
「無理」
即答。
レオが、少しだけ黙る。
「……なんで」
「……中途半端にされるの、嫌」
ラーナが返す。
一歩、近づく。
静かに。
レオの呼吸が、少しだけ乱れる。
(……何それ)
想定外。
「……別に」
「大した意味ないよ」
逃げる。
言葉で。
その瞬間。
ラーナの手が、伸びる。
服の袖を、掴む。
「……逃げないでよ」
低く。
一拍。
レオが、止まる。
沈黙。
少しだけ。
長い。
やがて。
息を吐く。
「……ずるいって、それ」
小さく、笑う。
でも。
逃げない。
「……分かったよ」
一拍。
視線を外して。
「……好きだから」
小さく。
でも。
「それだけ」
あっさりと。
でも。
ごまかさずに。
ラーナの呼吸が、止まる。
続ける。
「見てらんなかった」
「他のやつと話してんのも」
「普通にしてんのも」
「全部」
「絶対俺のこと意識してるはずなのに」
「逃げるし」
一歩、近づく。
「……だから、ああなった」
視線を外さない。
「最悪だろ」
自嘲気味に笑う。
でも。
逃げない。
ラーナの手は、まだ掴んでいる。
離さない。
そのまま。
小さく、息を吐く。
「……で」
「どうすんの」
静かに、落とす。
今度は。
ラーナの番だった。
心臓が、うるさい。
逃げ場は、ない。
でも。
逃げる理由も、もうない。
「……最悪」
一拍。
「ほんとに、最悪」
レオが、わずかに眉を動かす。
「それで終わり?」
少しだけ、強がる。
でも。
ラーナは、答えない。
一歩、近づく。
さらに。
距離が詰まる。
レオが、わずかに息を止める。
(……は?)
次の瞬間。
胸ぐらを、掴まれる。
「――っ」
強く、引き寄せる。
視線が、ぶつかる。
逃げ場なんて、ない距離。
「……分かってるくせに」
低く。
でも、どこか震えている。
(……もういい)
(逃げない)
そのまま。
迷いなく。
顔を寄せる。
今度は。
ラーナから。
唇が、重なる。
少し長く。
逃げない。
離さない。
そのまま。
ゆっくり、離れる。
距離は、近いまま。
息が、かかる。
ラーナの頬が、わずかに赤い。
でも。
目は逸らさない。
「……これでいい?」
小さく。
でも、はっきりと。
一瞬。
レオが固まる。
(……何それ)
理解が、追いつかない。
でも。
すぐに、笑う。
堪えきれないみたいに。
「……やば」
ぽつりと。
ラーナの手を、今度は自分から掴む。
離さないように。
「もう無理」
さっきより、はっきりと。
「絶対逃がさない」
低く、落とす。
ラーナは、少しだけ目を細める。
「……逃げない」
短く。
それだけで、十分だった。
距離は、もう戻らない。
最初からなかったみたいに。
数秒。
どちらも動かない。
近いまま。
そのままの距離。
「……ねえ」
レオが、ぽつりと。
ラーナが視線を向ける。
「今のさ」
一拍。
「俺の思ってるのと、ズレてないよね?」
軽く言う。
いつも通りに近い声。
でも。
ほんの一瞬だけ。
視線が揺れる。
ラーナの眉が、わずかに動く。
「……何それ」
「いや」
少しだけ笑う。
「俺はそのつもりだけど」
一拍。
「ラーナも同じならいい」
それだけ。
指に、ほんの少しだけ力が入る。
ラーナは、数秒黙る。
そのまま、レオを見る。
「……今さら?」
小さく。
「さっきの見て、それ言う?」
レオが、わずかに息を吐く。
(……だよな)
でも。
引かない。
「一応」
短く。
ラーナが、ほんの少しだけ近づく。
「……大丈夫だよ」
一拍。
「ズレてない」
はっきりと。
レオの目が、わずかに変わる。
(……よかった)
声には出さない。
「……そっか」
小さく笑う。
指の力が、少しだけ強くなる。
離さないように。
これにて第1章 ライバル編完結です♡




