第20話「視線の先」
昼休み。
学食は、いつも通り騒がしい。
ラーナは、一人で席に座っていた。
トレイに視線を落とす。
食べる。
それだけ。
なのに。
(……うるさい)
自分の思考が、落ち着かない。
理由は、分かっている。
少し離れた場所。
レオがいる。
周りに、数人。
笑い声。
自然な会話。
距離も、近い。
いつも通り。
(……別に)
関係ない。
そう思う。
思うのに。
視線が、いく。
勝手に。
レオが、笑っている。
相手の女子が、少し身を乗り出す。
距離が近い。
(……近い)
一瞬、思う。
すぐに否定する。
(関係ない)
でも。
もう一度、見る。
見なくていいのに。
(……何話してるの)
思考が、逸れる。
フォークが止まる。
そのとき。
ふっと。
視線が、合う。
レオ。
一瞬。
確実に、こちらを見た。
逃げ場が、なくなる。
ラーナは、すぐに目を逸らす。
何もなかったみたいに。
食べる。
(……見てない)
自分に言い聞かせる。
数分後。
「一人?」
レオ。
トレイを置く。
当たり前みたいに、隣。
しかも。
いつもの右側。
(……また)
ラーナは、何も言わない。
もう座っている。
「……見てたでしょ」
いきなり。
核心。
ラーナの手が、わずかに止まる。
「見てない」
即答。
早すぎる。
「へえ」
軽く笑う。
「じゃあなんで、目逸らしたの」
一拍。
言葉が、詰まる。
「……たまたま」
遅れて出る。
「ほんとに?」
低く。
ラーナは、目を逸らさない。
でも。
呼吸が、少しだけ浅い。
「……そっちは」
逆に返す。
「楽しそうだった」
思ってたより、低い声。
言ってから。
一瞬、止まる。
(……何言ってるの)
レオの目が、細くなる。
「なにそれ」
少しだけ、声が落ちる。
「気にしてる?」
分かってる顔で。
「してない」
即答。
でも。
視線が、ほんのわずかに揺れる。
レオが、近づく。
近い。
「じゃあ」
「なんで見てたの」
逃げ場がない。
ラーナは、数秒だけ黙って。
ゆっくり息を吐く。
「……視界に入っただけ」
理由が
弱い。
レオが、笑う。
「ふーん」
納得してない顔。
「じゃあ」
「これも、視界?」
ラーナの視線の先。
レオが、左手をテーブルに置く。
ラーナが右手を動かせば
すぐ触れる距離。
また。
利き手同士が、近い。
触れない。
でも。
意識させる距離。
(……近い)
ラーナの指が、わずかに動く。
離れるか。
そのままか。
迷う。
その一瞬を。
レオは見ている。
「逃げないんじゃなかった?」
低く。
逃がさないまま。
静かに刺す。
ラーナの動きが止まる。
(……そう)
逃げない。
決めた。
ゆっくり。
指先を、ほんの少しだけ前に出す。
――とん。
軽く、触れる。
自分から。
一瞬だけ。
すぐ離れる。
でも。
確かに触れた。
「……問題ない」
小さく。
レオが、固まる。
(……は?)
一拍遅れて。
息を吐く。
「それ、反則」
低く笑う。
ラーナは、何も言わない。
でも。
視線は、逸らさない。
数秒。
空気が、止まる。
レオが、少しだけ距離を引く。
「……まじでやばいな」
小さく呟く。
ラーナの耳が、少し赤い。
でも。
もう、隠さない。
視線の先は。
ずっと。
同じだった。
逸らせないまま。




