表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/76

第12話「ずれる距離」

 午後。


 病棟は、午前よりも少しだけ落ち着いていた。


 それでも。


 完全に止まることはない。



「これ、お願い」



 サヤがラーナに声をかける。



「うん」



 短く返す。


 自然なやり取り。



(……対等)



 レオは、その距離を見ていた。


 ラーナが動く。


 迷いがない。


 その横で。



「そこ、先にやった方がいい」



 低い声。


 ヘンリー。


 一瞬だけ、ラーナの手が止まる。


 でも。



「……はい」



 すぐに修正する。



(……やっぱり)



 レオの目が、わずかに細くなる。



(距離、おかしい)



 違和感が、はっきりしてくる。


 そのとき。



「レオくん」



 別の看護師が声をかける。



「これお願いできる?」


「はい」



 即答。


 手際よく動く。



(……できてる)



 でも。



(足りない)



 視線は、また戻る。


 ラーナ。


 ヘンリーの横。


 短いやり取り。


 でも、通じている。


 軽く舌打ちをしそうになる。



(なんだよそれ)



 小さく、熱が溜まる。





 夕方。


 ナースステーション。


 サヤがカルテを整理している。


 ラーナが、その横に立つ。



「さっきの」


「ありがとう」



 ラーナから。


 サヤが少しだけ目を丸くする。


 そのあとやわらかく笑う。



「ちゃんと見えてたね」


 一拍。


「前より余裕ある感じする」



 ラーナの視線が、わずかに落ちる。



「……そう?」


「うん」



 即答。


 その空気。



(……またそれ)



 レオは見ている。


 入り込めない距離。



(入るけど)


「お疲れさまです」



 声をかける。


 サヤが振り向く。



「お疲れさまです」



 丁寧に返す。


 ラーナも視線だけ向ける。



「ラーナ」



 一歩、近づく。



「さっきの件なんだけど」



 一拍。



「少し外で話せる?」



 サヤが、ほんの少しだけ視線を動かす。



(来たな)



 ラーナは一瞬だけ黙って。



「……今?」


「今」



 迷いがない。


 そのとき。



「ラーナ」



 低い声。


 ヘンリー。



「これ、確認しろ」



 書類を差し出す。



(……タイミング良すぎ)



 ラーナは、迷わない。



「……はい」



 そのまま受け取る。


 一瞬だけ。


 視線が、ほんのわずかにレオの方へ動く。


 でも。


 すぐに切れる。


 そのまま、ヘンリーの方へ。



(……は?)



 レオの眉が、わずかに動く。


 完全に遮られた。


 しかも自然に。



「……すみません」



 サヤに軽く言う。



「いえ」



 サヤは穏やかに首を振る。



「タイミング、悪かったですね」



(いや)


(悪くされたんだよ)



 心の中でだけ返す。


 視線の先。


 ヘンリーとラーナ。


 近い距離。


 説明。


 理解。


 その流れ。



(……あーあ)



 小さく笑う。



(無理だわ、これ)


(入り込む隙、全然ない)



 でも。



(だからいい)


(……取るか)



 目が、少しだけ鋭くなる。


 軽さの奥に、本気が混ざる。



(あいつの視線)


(こっち向かせる)



 そのまま背を向ける。


 次に動くために。


 もう、迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ