第13話「侵食」
――二日目。
朝。
空気は、昨日と同じ。
でも。
(違う)
レオは、すでにそこにいた。
ナースステーション。
誰よりも早く。
配置。
動線。
器具の位置。
全部、頭に入れる。
(遅れた分、取り返す)
そのとき。
「……早いね」
ラーナ。
「普通」
短く返す。
「何してるの」
「覚えてるだけ」
「全部」
一拍。
ラーナは、それ以上聞かない。
(……やる気だ)
空気が、昨日と違う。
⸻
午前。
処置。
「これ持って」
声が飛ぶ。
「はい」
レオが先に動く。
昨日より速い。
正確。
ラーナが、一瞬だけ見る。
(……上げてきた)
処置は流れる。
ヘンリーが口を開く。
「先に——」
その言葉に、重なるように。
レオが動く。
迷いなく、次の処置に入る。
一瞬。
手が、一瞬止まる。
誰の指示を優先するか。
ほんの一拍、迷いが走る。
でも。
止まらない。
結果。
流れは、速くなる。
無駄が消える。
ヘンリーの視線が、わずかに動く。
何も言わない。
ただ。
“見ている”。
処置が終わる。
「……悪くない」
短く。
誰に向けたかは、曖昧。
でも。
レオは、分かっている。
「ありがとうございます」
軽く返す。
そのまま。
視線を横へ。
ラーナ。
(どう?)
言わない。
でも。
明確に向けている。
ラーナは、一瞬だけ見て。
すぐに視線を外す。
「……次」
それだけ言って、動く。
(逃げた)
レオの口元が、わずかに上がる。
(いいね)
(効いてる)
⸻
午後。
少し複雑な処置。
ラーナが対応している。
正確。
でも。
「……」
一瞬、詰まる。
その瞬間。
「そこ」
間を置かない。
ラーナの思考に、被せる。
「角度、もう少し」
短く。
押し付けない。
でも、逃がさない。
ラーナの手が、一瞬止まる。
(……は?)
内側で反発。
でも。
レオは、もう次を見ている。
一瞬考える。
(……確かに)
修正する。
通る。
スムーズに。
ラーナの呼吸が、わずかに変わる。
「……」
何も言わない。
でも。
(今の、こいつ)
(……ムカつくのに)
理解はしている。
レオが、小さく笑う。
「ほら」
軽く。
「合ってた」
ラーナが、ゆっくり視線を向ける。
「……うるさい」
低く。
でも。
否定ではない。
(入った)
レオの目が、少しだけ変わる。
(ここまで来たら)
(もう引かない)
⸻
夕方。
廊下。
ラーナが一人でいる。
「ねえ」
レオ。
一歩、近づく。
「今日さ」
一拍。
「避けなかったね」
ラーナの目が、わずかに動く。
「……別に」
「昨日なら無視してたでしょ」
言い切る。
沈黙。
数秒。
ラーナは、息を吐く。
「……逃げたら負けだから」
正面から。
レオを見る。
一瞬。
レオが、止まる。
(……マジかよ)
想定外。
でも。
その分。
熱が上がる。
「……いいね」
低く。
「そういうの」
一歩、近づく。
「じゃあさ」
一拍。
「ちゃんと勝負しようか」
距離が近い。
逃げ場は、ない距離。
ラーナは、数秒だけレオを見る。
逃げない。
そのまま。
「……いいよ」
即答。
一瞬の沈黙。
レオが、ほんの少しだけ笑う。
(終わったな)
(もう戻れない)
軽さの奥。
本気が、完全に混ざる。
(取る)
(もう、逃がさない)
その視線が、はっきりと変わった。




