表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/76

第11話「視線の先」

 処置室を出た後。


 少しだけ落ち着いた廊下。


 さっきまでの緊張が、ゆっくりとほどけていく。



「……すご」



 レオが小さく呟く。



「思ってたのと違うわ」


「現場は、あんな感じ」



 横から、柔らかい声。


 振り返る。



「お疲れさまでした」



 サヤ・アールグレン。


 穏やかな空気。


 でも、どこか芯がある。



(……この人もか)



 レオの目が、少しだけ細くなる。



「初日であれは、きついよね」



 軽く笑う。



「……ううん」



 ラーナが短く返す。



「大丈夫」



 サヤに対しては、自然にタメ口。


 サヤは、少しだけ目を細める。



「そっか」



 一拍。



「……ちゃんと動けてたね」



 その言葉。


 ラーナの視線が、ほんのわずかに揺れる。



「無理してない?」



 優しい言い方。


 でも。


 見透かすようでもある。


 ラーナは、一瞬だけ黙って。



「……してない」



 短い。


 でも、さっきより少しだけ柔らかい。


 サヤは、それ以上は踏み込まない。



「そっか」


「無理はしないでね」



 それだけ残して。


 空気が、ほんの少しだけ緩む。



(……やっぱり)



 レオは、それを見ていた。



(この二人も、なんかあるな)



 言葉じゃない距離。


 それが、分かる。



「すみません」



 レオが、少しだけ姿勢を正して声をかける。


 サヤが視線を向ける。



「さっきの処置、ありがとうございました」


「いえいえ」



 サヤが少しだけ笑う。



「こちらこそ、動いてくれて助かりました」


「いえ、まだ全然です」



 一拍。



「……あの先生、いつもああいう感じなんですか?」



 少しだけ声を落として


 探る。


 サヤは、少し考えて。



「……どうだろ」



 曖昧に笑う。



「慣れると、普通ですかね」


(慣れると、ね)



 レオの口元が、わずかに上がる。



「そうなんですね」



 一歩、少しだけ距離を詰める。



「サヤさんは、慣れてる側ですか?」



 自然に名前呼び。


 サヤが、一瞬だけ言葉を止める。



(……距離の詰め方、上手いな)


「……どう思います?」



 少しだけ返す。


 レオが、笑う。



「慣れてますね」


「かなり」



 視線が、少しだけ深くなる。


 そのとき。



「サヤ」



 低い声。


 一瞬で、空気が変わる。


 ヘンリー。


 少し離れた位置。


 視線は、まっすぐ。



「来い」



 短い。


 それだけ。


 サヤは、一瞬だけレオを見る。



「すみません」



 小さく言って。


 すぐに向かう。


 迷いがない。


 レオは、その背中を見る。



(……へえ)



 ほんの一瞬だけ。


 ヘンリーの視線が、こちらをかすめる。


 無言。


 でも。



(……牽制してるな、これ)



 レオが、わずかに笑う。



(分かりやす)



 サヤは、もう隣にいる。


 自然な距離。


 当たり前みたいに。



(そっちか)



 さっきの違和感が、形になる。


 ラーナが、横でぽつり。



「絡むのやめといた方がいい」


「何が?」


「……あの人も」



 一拍。



「サヤも」



 少しだけ視線を動かす。



「あと」


「私も」



 一瞬、間。


 レオが、少しだけ笑う。



「前二つはいいや」



 あっさり。



「普通にやばそうだし」



 軽く肩をすくめる。



「でも」



 一歩、少しだけ距離を詰める。



「お前は無理」



 ラーナを見る。


 まっすぐ。



「一番面白いの、そこじゃん」



 目が、完全に遊んでいる。


 ラーナは、小さく息を吐く。



(……めんどくさいのに目つけられた)



 でも。


 逃げない。



(逃げたら、負け)



 視線の先。


 ヘンリーとサヤ。


 そして。


 自分の立っている場所。


 全部ひっくるめて。


 空気が、少しだけ変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ