第5話:なびかない女
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
――翌日。
「リオくん大丈夫だった!?」
「昨日怖かったよぉ……!」
朝から、いつもの騒がしさだ。
子どもたちが心配そうに寄ってくる。
どうやら昨日の件で、さらに好感度が上がったらしい。
(いらねぇ……)
正直な感想だった。
好かれても金にならない。
むしろ減る。
もう嫌というほど理解した。
(“人運の使い方”変えねぇと詰む)
そう考えながら、俺は村の外れへ向かっていた。
目的は一つ。
“なびかない相手”を探すこと。
(全員が全員、俺に好意的なわけじゃないはずだ)
もしそんなやつがいるなら――
(そいつと組めばいい)
利害だけで動く関係。
前世で慣れ親しんだ、あの距離感。
それが、今の俺には必要だった。
そして――
「……いた」
小さく呟く。
視線の先。
井戸のそばに、一人の女がいた。
年は俺より少し上、十歳前後。
黒髪を後ろでまとめ、無駄のない動きで水を汲んでいる。
周囲には誰もいない。
いや――正確には。
誰も近づいていない。
(あいつだけ、浮いてるな)
この村では珍しい光景だった。
普通なら、誰かしら話しかける。
だが彼女には、それがない。
理由は、すぐにわかった。
「……何」
鋭い声。
俺が近づいた瞬間、振り向きもせずにそう言った。
(……おお)
初めてだ。
俺に対して、明確に“拒絶”の反応。
それだけで、妙に安心する。
「話がある」
「ない」
即答だった。
(いいねぇ)
むしろ好感が持てる。
話が早い。
「商売の話だ」
「興味ない」
間髪入れずに切り捨てられる。
だが――
(それでも、ここで引くわけにはいかねぇ)
俺は一歩踏み込む。
「俺は金を稼ぎたい」
「……で?」
「だが一人じゃ無理だ」
「でしょうね」
淡々と返される。
表情一つ変わらない。
「だから、組まないか」
その一言で、初めて彼女がこちらを見た。
冷たい目だった。
感情がほとんど乗っていない。
「……は?」
「お前、俺に興味ないだろ」
「ないわね」
「最高だ」
「は?」
「俺は人に好かれる」
事実だけを伝える。
「だから、まともな商売ができない」
「……意味がわからない」
「説明する時間がもったいない。要するに――」
一度、言葉を切る。
そしてはっきりと言った。
「俺は金を増やす。お前はそれを守れ」
数秒、沈黙が落ちる。
風の音だけが通り過ぎた。
「……断る」
即答だった。
迷いすらない。
(まぁ、そうだろうな)
だが、ここで終わりじゃない。
「報酬は折半」
「いらない」
「じゃあ全部やる」
「もっといらない」
(は?)
一瞬、思考が止まる。
「私は“確実な利益”しか興味ないの」
彼女は淡々と言った。
「あなたの話、全部不確定すぎる」
「……」
「それに」
じっと、俺を見下ろす。
「あなた、自分がどれだけ危ないこと言ってるかわかってる?」
「わかってる」
「嘘ね」
即座に否定される。
「あなたは“他人に依存する前提”で話してる」
「……」
「そういう人間は、いつか全部失う」
その言葉に――
ほんの一瞬だけ、前世の記憶がよぎった。
(……図星かよ)
「だから関わらない。それが一番安全」
そう言って、彼女は再び井戸に向き直る。
完全な拒絶。
だが――
(いいねぇ)
口元が、わずかに緩んだ。
「名前は?」
「……は?」
「パートナーになる相手の名前くらい知っときたい」
「ならないって言ったはずだけど」
「今はな」
沈黙。
数秒後、彼女はため息をついた。
「……レナ」
「リオだ」
「知ってる。うるさいくらい有名だから」
(やっぱりか)
「じゃあレナ」
俺は一歩引く。
「また来る」
「来なくていい」
「来る」
そう言って、その場を後にした。
(あいつだな)
確信していた。
あいつだけが、俺に流されない。
あいつだけが、“俺を利用しない”。
(だからこそ――必要だ)
こうして俺は――
初めて“人運が通じない相手”と出会い、そして一方的に目をつけた。
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