第4話:盗賊に好かれて、全財産なくなりました
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
――村の外。
それは、俺にとって“未知”であり、“チャンス”であり、そして――
(……普通に怖ぇな)
ただの森だった。
だが、村の周囲とは明らかに空気が違う。人の手が入っていない分、静かで、重い。
「リオくん、ほんとに大丈夫?」
後ろから不安そうな声。
振り返ると、案の定ついてきているガキどもがいた。
「……なんで来た」
「だって心配で……」
「一人じゃ危ないよ!」
(いや、お前らが来てる方が危ないだろ)
喉まで出かかったが、飲み込む。
どうせ止めても来る。
それがこの世界で学んだことの一つだ。
(……とにかく、さっさと終わらせる)
俺の目的はシンプル。
この村の外で、ちゃんと“金を稼ぐ”こと。
人運が通じない相手に対してなら、まともな商売ができるはず――
そう思っていた。
⸻
「おい」
低い声が、背後から落ちてきた。
振り向く。
そこにいたのは――三人の男。
ボロい装備。濁った目。腰には短剣。
(……はい、来ました)
どう見ても、まともな相手じゃない。
いわゆる“盗賊”ってやつだろう。
「ガキがこんなとこで何してんだ?」
男の一人が、にやりと笑う。
子どもたちが一斉に俺の後ろに隠れた。
(まぁ、そうなるよな)
だが、不思議と恐怖はなかった。
むしろ――
(ここだな)
と、冷静に思っていた。
こいつらなら、間違いなく“好意”なんて持たない。
つまり――
(やっと普通に交渉できる)
⸻
「商売しに来た」
俺は一歩前に出る。
「はぁ?」
盗賊たちが顔を見合わせる。
「……ガキが商売?」
「そうだ」
ポケットから、前に仕入れた(もらった)食料の一部を取り出す。
「これを売る」
シンプルに提示する。
前世でもよくやったやり方だ。
余計なことは言わない。価値を見せて、相手に判断させる。
それでいい。
――普通ならな。
⸻
「……はは」
一人が、吹き出した。
「おい、こいつおもしれぇぞ」
「マジだな。こんな状況で商売とか」
そして――
「気に入った」
その一言で、空気が変わった。
(……あ?)
嫌な予感がした。
次の瞬間。
「お前、いい度胸してるな」
「俺、そういうやつ好きなんだよ」
盗賊の一人が、ぐっと距離を詰めてくる。
近い。
そして、やたらと笑顔だ。
(……ちょっと待て)
この感じ。
嫌というほど知っている。
これは――
(“好かれてる”やつだ)
⸻
「ガキ、名前は?」
「……リオ」
「リオか。いい名前じゃねぇか」
肩をバンバン叩かれる。
痛い。
「なぁリオ、お前のこと気に入ったからよ」
男は、にやりと笑って――
「全部もらってやるよ」
「は?」
⸻
――一瞬だった。
気づいた時には、手に持っていた食料も、ポケットの中の銀貨も、全部なくなっていた。
抵抗?
できるわけがない。
相手は大人、こっちは五歳児だ。
それに――
「ありがとな、リオ!」
「また会おうぜ!」
満面の笑みで、盗賊たちは去っていった。
⸻
(……は?)
取り残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
後ろでは子どもたちが震えている。
「り、リオくん……大丈夫……?」
「……ああ」
大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃない。
だが、それ以上に――
(なんなんだよ、これ)
理解はしていた。
いや、理解してしまった。
⸻
人運は、ここでも発動していた。
⸻
だがそれは――
“助けられる形”じゃなく、“都合よく扱われる形”で。
⸻
「……クソが」
思わず、口から漏れた。
前世では、人に嫌われて搾取された。
今世では、人に好かれて搾取される。
(どっちにしろ、取られる側かよ……!)
⸻
「でもリオくん、すごいよ……」
子どもたちが、ぽつりと呟く。
「怖い人たちなのに、仲良くなってた……」
「うん……普通なら絶対ダメだったよ……」
――褒められているらしい。
(嬉しくねぇよ)
⸻
だが、一つだけ収穫はあった。
(……使い方、間違えてたな)
この能力は、“交渉”には向いていない。
むしろ――
(戦闘回避とか、時間稼ぎとか、そっちだ)
そう考えれば、価値はある。
少なくとも、殺されずに済んだ。
⸻
「……帰るぞ」
俺は背を向ける。
財布は空。
手元には何もない。
だが――
(やり方は、見えてきた)
⸻
こうして俺は――
“人に好かれるほど損をする”という、このクソみたいな能力の本当の使い方を、ようやく理解し始めた。
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