表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金持ちから貧乏転生~金を取るか人を取るか~  作者: 有明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

第19話:終わりの始まり

金運最強、人運最悪だった男が――

異世界で“真逆の運命”を背負わされます。


ゆるく読める逆転系コメディです。


 朝の空気は、妙にざらついていた。


 いつもと同じ時間。


 同じ場所。


 それなのに、どこか違う。


 人の動きが、ぎこちない。


 視線が合えば、すぐに逸らされる。


 会話はある。


 でも、どこか落ち着かない。


(広がってるな)


 昨日のことが。


 隠せる規模じゃない。


 あれだけ派手にやれば、当然だ。


「聞いたか?」


「ああ、盗賊同士でやり合ったって」


「夜中ずっとだぞ」


 あちこちで、同じような話が聞こえる。


 尾ひれもついている。


 実際より大きく、過激に。


(ちょうどいい)


 噂は、広がるほど価値がある。


 それだけ動きにくくなるからだ。


 表立って動けば、余計に目立つ。


 今のあいつらは、それができない。


「……思ったより大きくなったね」


 隣でレナが小さく言う。


「ああ」


 短く返す。


 視線は前に向けたまま。


「しばらくは動けない」


「だな」


 両方とも。


 怪我もあるだろうし、何より警戒が強くなる。


 仲間内の確認も必要になる。


 すぐに外へ手を出せる状況じゃない。


(今が一番、隙だ)


 間違いない。


 このタイミングを逃したら、次はない。


「準備、もう一回確認する」


 レナが言う。


「頼む」


 俺たちは人の少ない裏通りに移動した。


 声を落とす。


 ここからはミスが許されない。


「荷物は最小限」


 レナが指で示す。


「食料は一日分だけ。あとは現地調達」


「問題ない」


「水も同じ」


「了解」


「お金」


 少しだけ間。


「……十分ある」


 昨夜までに確保した分。


 取り分。


 削られた分もあるが、それでも足りる。


 次の場所に行くには、十分すぎる。


「ルートは?」


「西側」


 即答する。


「人が少ない方」


「理由は?」


「追われにくい」


 それだけじゃない。


 単純に、目立たない。


 今はそれが最優先だ。


「納得」


 レナが頷く。


「タイミングは?」


「昼前」


「夜じゃないの?」


「夜は目立つ」


 盗賊同士の騒ぎがあった直後だ。


 夜に動く方が不自然になる。


「人が普通に動いてる時間の方が紛れやすい」


「……確かに」


 納得した様子。


 細かい部分まで詰める。


 少しのズレが命取りになる。


「……あと一つ」


 レナが言う。


「何かあったら、すぐ離れる」


「は?」


「捕まりそうになったら、迷わず切る」


 目が真剣だ。


「一緒に逃げるとか考えない」


「……」


「どっちかでも逃げる方がいい」


 合理的な判断。


 正しい。


 でも――


「断る」


 即答した。


「は?」


「それはなしだ」


「なんで」


「意味ねぇだろ」


 短く言う。


「片方だけ生き残っても」


「意味はある」


 レナは引かない。


「情報が残る。次に繋がる」


「それ、お前がやれよ」


「私はやる」


「じゃあ俺もやる」


「……」


 一瞬の沈黙。


「合理的じゃない」


「知ってる」


「でも却下」


 視線を逸らさない。


 ここは譲れない。


 理由はうまく説明できない。


 でも――


(これだけは違う)


 そう思った。


 レナは小さく息を吐く。


「……わかった」


 完全に納得はしていない。


 でも、それ以上は言わなかった。


「その代わり」


「なんだ」


「無茶しない」


「できる範囲でな」


「それでいい」


 話はまとまった。


 静かに、でも確実に。


 準備は整った。


 あとは――


(動くだけだ)


 時間が過ぎる。


 村のざわつきは続いている。


 でも、どこか距離がある。


 誰も深く関わろうとしない。


 巻き込まれたくないからだ。


(いい流れだ)


 俺たちにとっては。


 そして――


「行くよ」


 レナの声。


 時間だ。


 昼前。


 人の動きが自然な時間。


 俺たちは、何もなかったかのように歩き出す。


 急がない。


 走らない。


 普通に。


 それが一番目立たない。


 通りを抜ける。


 視線は感じる。


 でも、止められることはない。


 まだ、俺たちは“ただの村人”に見えている。


(今のうちだ)


 足を止めない。


 一歩ずつ、確実に。


 村の外れに近づく。


 空気が変わる。


 人が減る。


 音が減る。


 静かになる。


「……あと少し」


 レナが小さく言う。


「ああ」


 出口は見えている。


 もうすぐだ。


 その時だった。


「おい」


 声。


 背中に刺さる。


(……来たか)


 ゆっくり振り返る。


 そこにいたのは――


 元の盗賊の一人。


 怪我をしている。


 でも、立っている。


「どこ行く」


 低い声。


 疑いの目。


 完全に気づかれているわけじゃない。


 でも――


(時間の問題だな)


「ちょっとな」


 軽く返す。


「用事だ」


「……そうかよ」


 一歩、近づいてくる。


 距離が詰まる。


 空気が重くなる。


(まずいな)


 ここで止められたら終わる。


 逃げても怪しまれる。


 でも――


 その時。


「おい!」


 別の方向から怒鳴り声。


 全員の視線がそっちに向く。


 新しい盗賊の一人。


「てめぇ、昨日の続きだ!」


 完全に喧嘩腰。


「……チッ」


 目の前の男が舌打ちする。


 一瞬、迷う。


 そして――


「動くなよ」


 それだけ言って、そっちへ向かった。


(……助かった)


 心の中で呟く。


 これ以上ないタイミング。


「今」


 レナが小さく言う。


「ああ」


 迷わない。


 そのまま、歩く。


 少しだけ速度を上げる。


 でも、走らない。


 あくまで自然に。


 境界を越える。


 村の外。


 風が変わる。


 音が変わる。


 空気が、軽くなる。


(……抜けたな)


 確信する。


 もう、戻らない。


 戻る理由もない。


 振り返らない。


 そこにはもう、俺たちの居場所はない。


「……終わったね」


 レナが言う。


「いや」


 首を振る。


「終わりじゃない」


 少しだけ笑う。


「始まりだろ」


 レナが少しだけ黙る。


 そして――


「……そうだね」


 小さく頷いた。


 こうして俺たちは、


 奪い合いの場所から抜け出し、自分たちの意思で次へ進むことを選んだ。


 ここが、終わりの始まり。


 そして――


 本当のスタートラインだ。

読んでいただきありがとうございます!

よければブックマーク・評価してもらえると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ