第18話:衝突
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
夜は、いつもより静かだった。
風の音だけが、やけに耳に残る。
人の気配が薄い。
まるで、何かを避けているみたいに。
(……来るな)
確信に近い感覚があった。
昼に撒いた火種は、小さくはない。
あとは燃えるだけだ。
「位置、ここでいい?」
レナが小さく言う。
俺たちは村の外れ、少し高くなった場所にいた。
全体が見える。
でも、気づかれにくい。
「十分だ」
頷く。
近すぎれば巻き込まれる。
遠すぎれば見えない。
ここがちょうどいい。
「……静かすぎる」
「嵐の前ってやつだな」
軽く返す。
実際、その通りだった。
普段なら聞こえるはずの笑い声や話し声が、ほとんどない。
皆、どこかで感じ取っている。
“何か起きる”って。
しばらく待つ。
時間の感覚が、少しだけ曖昧になる。
数分か、もっとか。
その時だった。
「……来た」
レナの声。
視線を向ける。
暗がりの中、いくつかの影が動いている。
片方じゃない。
両方だ。
(予定通り)
元の盗賊。
新しい盗賊。
それぞれが、同じ場所に集まってくる。
偶然じゃない。
必然だ。
「おい」
先に声を上げたのは、元の盗賊の方だった。
「てめぇらだな」
低い声。
押し殺した怒りが滲んでいる。
「は?」
新しい盗賊が返す。
すでに、苛立っている。
「なんの話だ」
「とぼけんな」
一歩、距離が詰まる。
互いに、逃げる気はない。
「うちの縄張りで、好き勝手やってくれたらしいな」
「知らねぇって言ってんだろ」
言葉は否定。
でも、態度は挑発。
完全に火がついている。
(……早いな)
もう少し探り合いがあると思っていた。
だが、そんな段階は飛ばされた。
理由は単純だ。
どっちも余裕がない。
「証拠はあんのかよ」
新しい盗賊の一人が言う。
「あるから来てんだろうが」
元の盗賊が睨み返す。
言葉のぶつかり合い。
でも、それはただの前置きだ。
空気が、張り詰める。
少しのきっかけで、全部崩れる。
(そろそろだな)
そう思った瞬間だった。
ドン、と鈍い音。
誰かが、肩をぶつけた。
わざとか、偶然か。
そんなことは関係ない。
「……今の何だ?」
「は?」
視線がぶつかる。
一瞬の静止。
そして――
崩れた。
拳が振られる。
鈍い音。
それが合図みたいに、全体が動いた。
「やってんじゃねぇぞ!」
「そっちだろうが!」
怒鳴り声。
足音。
殴り合い。
完全な混戦。
(始まったな)
予想通り。
でも、想像以上に激しい。
元の盗賊は数で押す。
囲むように動く。
対して、新しい盗賊は荒い。
統率はないが、一人一人が躊躇しない。
だから、崩れない。
「……やば」
思わず呟く。
血が飛ぶ。
倒れる音。
息が荒くなる音。
ただの脅し合いじゃない。
本気だ。
「想定以上」
レナも小さく言う。
「でも、狙い通り」
確かに。
どっちも、もう止まれない。
引いた方が負ける。
そういう空気になっている。
(これでいい)
視線を外さない。
ここで目を逸らしたら、全部が曖昧になる気がした。
これは俺が作った状況だ。
目を背ける資格はない。
「……長引くね」
「だな」
すぐには終わらない。
どっちも引かないから。
だからこそ、消耗する。
それが目的だ。
一人が倒れる。
別のやつが蹴り飛ばされる。
叫び声。
荒い息。
夜の静けさが、完全に壊れる。
(これが現実か)
少しだけ、胸の奥が重くなる。
でも――
(止める理由はない)
ここで止めたら、俺たちが終わる。
それだけは確実だ。
「……帰ろう」
レナが言う。
「十分」
「ああ」
これ以上見ていても意味はない。
結果はもう決まっている。
“どっちも削れる”。
それでいい。
その場を離れる。
音が少しずつ遠くなる。
でも、完全には消えない。
頭の中に残る。
(……後味悪いな)
正直な感想だった。
気持ちいいとは思えない。
でも――
(必要だった)
そう言い聞かせる。
しばらく無言で歩く。
足音だけが響く。
「……後悔してる?」
レナがぽつりと聞く。
「してない」
即答する。
少しの迷いもなく。
「そっか」
それ以上は何も言わない。
でも、その一言で十分だった。
「でも」
俺は続ける。
「次は、もうちょい綺麗にやる」
「……何それ」
少しだけ、呆れた声。
「もっとスマートに勝つってこと」
「今回は汚いって自覚あるんだ」
「ある」
隠す気はない。
むしろ、ちゃんと理解しておきたい。
これがどういうやり方なのか。
「じゃあ、次に活かして」
「そうする」
短いやり取り。
でも、悪くない。
むしろ、少しだけ軽くなる。
空を見上げる。
雲が流れている。
何も変わっていないように見える。
でも――
(全部変わったな)
もう、元には戻らない。
この村も。
あいつらも。
そして、俺たちも。
静かに息を吐く。
これで終わりじゃない。
むしろ――
ここからだ。
こうして俺たちは、
自分たちで起こした衝突を背に、次の一手へ進む準備を整えた。
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