第12話:増えるほど、縛られる
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
稼ぎは、さらに伸びた。
目に見えて、はっきりと。
「これ、全部でいくら?」
「銀貨七枚だ」
「……買う」
前よりも、仕入れの数を増やした。
単価が上がっても問題ない。
どうせ売れる。
そう思えるくらいには、流れができていた。
「それ、また売ってくれる?」
「いいよ」
笑うだけで、成立する。
前と同じ。
いや、前よりもスムーズだ。
後ろに“何かある”と、人は勝手に納得する。
(ほんと単純だな)
心の中で呟く。
だが、その単純さのおかげで金は増える。
それがすべてだ。
「……銀貨十六枚」
レナが小さく言う。
「取り分で八ずつ」
昨日よりもさらに増えている。
この調子なら、もっといける。
(回せば回すほど増えるな)
手応えはあった。
明確に、“稼げている”感覚。
前世でも味わったことのある感覚だ。
だが――
「明日も同じ量でいける?」
レナが聞く。
「いけるだろ」
「無理」
即答だった。
「……なんで」
「仕入れ先が持たない」
淡々とした説明。
「同じ店から何度も買えば、警戒される」
「じゃあ別の店行けばいい」
「この規模の村で?」
言葉に詰まる。
(……確かに)
店の数は限られている。
回せる量にも、限界がある。
「それに」
レナは続ける。
「あなた、目立ちすぎ」
「またそれか」
「またそれ」
ピシャリと返される。
「人が集まるのはいい。でも、集まりすぎると情報も回る」
「……」
「“あいつらと組んでる”って広まったらどうなると思う?」
少し考える。
答えは、すぐに出た。
(近づかなくなるな)
もしくは――
(別の面倒が来る)
「だから、ペース落とす」
レナが言う。
「今日はこれで終わり」
「まだいけるだろ」
「いけるけど、やらない」
きっぱりとした声。
「長く続ける方が大事」
(……慎重すぎる)
そう思った。
だが、否定はできない。
現に、今うまく回っているのはレナのおかげだ。
「……わかった」
渋々、頷く。
本音は、もっと稼ぎたい。
でも、今は従うしかない。
そう思った、その時。
「おい」
後ろから声。
振り向くまでもない。
盗賊だ。
「今日は終わりか?」
「ああ」
短く答える。
「そうか」
男が近づいてくる。
そして、当然のように手を出す。
「じゃあ、分け前な」
袋を渡す。
銀貨八枚のうち、四枚。
もう慣れた動作だった。
「毎度あり」
笑って受け取る。
その顔を見て――
(……ムカつくな)
少しだけ、感情が動く。
だが、何も言わない。
今はまだ、その時じゃない。
「明日も頼むぜ」
軽く手を振って去っていく。
その背中を、無言で見送る。
完全に、“上”に立たれている。
(対等じゃねぇな)
わかっていたことだ。
でも、改めて実感する。
「……ほらね」
レナが小さく言う。
「もう抜けにくくなってる」
「……」
「向こうは、あなたが稼ぐ前提で動いてる」
確かに。
さっきの言い方は、“お願い”じゃなかった。
“当然”だった。
「稼ぐのやめたら?」
レナが続ける。
「どうなると思う?」
想像する。
すぐに浮かぶ。
(潰されるな)
笑顔のまま、全部持っていかれる。
前みたいに。
「……やめられねぇな」
「そういうこと」
レナはそれだけ言った。
風が少し強くなる。
人の声が遠くで聞こえる。
いつもと同じ村の風景。
でも――
(なんか、違うな)
自由に動いているはずなのに、
どこかで縛られている感覚。
稼げば稼ぐほど、その感覚が強くなる。
増えているのは金だけじゃない。
(縛りも、増えてる)
そう気づいた時には、もう遅いのかもしれない。
こうして俺たちは――
増やすほどに、抜け出しにくくなる場所へと、足を踏み入れていた。
読んでいただきありがとうございます!
よければブックマーク・評価してもらえると嬉しいです。




