第11話:守られて稼ぐ
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
「で、どう分ける?」
盗賊の男が腕を組んで言う。
場所は同じ路地裏。人目は少ないが、緊張感は前よりずっと濃い。
今はもう、“奪う側と奪われる側”じゃない。条件を決める場だ。
「三割」
レナが即答する。
「こっちが七、そっちが三」
「は?」
男の眉が上がる。
「逆だろ普通」
「普通じゃないからこの話してる」
淡々と返す。
「この子が稼ぐ。あなたたちは何もしない」
「守るだろうが」
「“守るだけ”」
レナは一歩も引かない。
「リスクはこっちが背負う。だから七」
空気がピリつく。
俺は黙って見ている。
(ここは完全にレナの領域だ)
下手に口出すと壊れる。
「五五だ」
盗賊が言う。
「それなら考えてやる」
「高い」
「なら終わりだな」
男が肩をすくめる。
交渉が崩れかけた、その瞬間。
「いいよ」
俺が口を開いた。
二人の視線が一斉にこっちに来る。
「五五でいい」
「……は?」
レナの声が低くなる。
「何言ってるの」
「今はそれでいい」
はっきり言う。
「まずは“形”作るのが先だろ」
「……」
「ゼロよりマシだ」
沈黙が落ちる。
数秒後、レナは小さく息を吐いた。
「……了解」
短く、それだけ。
納得はしていない顔だった。
「決まりだな」
盗賊が笑う。
手を差し出してくる。
俺はそれを握った。
これで、“守られて稼ぐ構造”ができた。
その日から、やり方は変わった。
今までと同じように仕入れて、売る。
違うのは――トラブルが起きないことだ。
「おい、それ俺が先に見てたんだが」
絡んでくる男。
だがその瞬間。
「……何か問題あるか?」
後ろから低い声。
盗賊の男だ。
「……チッ」
相手が引く。
それだけで、揉め事は消える。
(楽だな)
正直な感想だった。
前なら損をしていた場面が、何も起きずに終わる。
力で押さえられる。
それだけで、全部が変わる。
「これ、買うよ」
俺が言う。
「……ああ、いいぞ」
商人の態度も変わる。
後ろにいる“存在”が効いている。
(信用じゃない。圧だな)
それでも、結果は出る。
「銀貨十二枚」
レナが呟く。
「取り分で六ずつ」
昨日よりも、明らかに多い。
(効率は上がってる)
間違いない。
「悪くない」
俺は言う。
「悪い」
レナは即答した。
「取り分が無駄」
「でも安定しただろ」
「依存が増えただけ」
ピシャリと切る。
「このままだと抜けられなくなる」
(……わかってる)
頭では理解している。
でも、楽なんだ。
守られてる安心感。
トラブルが消える快適さ。
それは前世でもなかったものだ。
「……一旦これでいく」
俺は言う。
「効率優先だ」
レナは何も言わなかった。
ただ、小さく視線を逸らした。
「ちゃんと覚えといて」
ぽつりと呟く。
「これ、“借り”だから」
「……は?」
「力借りてる時点で、対等じゃない」
その言葉は静かだった。
でも妙に重い。
その日の終わり。
俺たちは、確かに前より稼いだ。
トラブルもなかった。
効率も上がった。
それでも――どこかでズレている感覚が残る。
うまくいっているはずなのに、完全じゃない。
その違和感の正体を、俺はまだ知らない。
こうして俺たちは、安全と引き換えに、少しずつ自由を失いながら稼ぎ始めた。
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