↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍①巻 8/3発売!】 推しの悪女の侍女になりました 〜断罪フラグ? 推し愛で全てへし折ります〜【コミカライズ進行中】  作者: 海城あおの
第四章 ソレイユ学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/68

8. 雨の日の編入生

 

「ソレイユ・フラン」


 一瞬、教室が静まり返った。続いて、ざわりと空気が揺れる。

 腑に落ちないような、信じられないと言わんばかりのざわめきだった。

 私はゆっくりと立ち上がり、教師の元へ向かった。答案を受け取り、席へ戻る途中でアネットとロレーヌの席のそばを通りかかる。

 その時、かすかな声が耳に届いた。


「……どんな手を使ったのかしら」


 悔しさを押し殺したような声だった。二人は平静を装っているものの、目元は怒りで強張っている。

 私は静かに微笑んだ。


「先日は私のために、ご指導ありがとうございました」


 二人の視線が鋭くなる。私は気づかないふりをして、さらに笑みを深めた。


「今後もぜひ、辺境育ちの私に色々とご教示くださいませ」


 その瞬間、二人の顔がカッと真っ赤に染まった。口の端がぴくぴくと引きつっている。私はそれ以上何も言わず席へ戻った。

 胸の奥に溜まっていたものが、ほんの少しだけ軽くなった気がする。

 ロザリア様の方をちらりと見る。彼女は窓の外へ視線を向けていて、表情はよく分からなかった。

 だが、口元がほんの少しだけゆるんでいるように見えた。


 放課後。

 帰りの馬車で二人きりになると、ロザリア様はぽつりと呟いた。


「驚いたわ。まさか、ここまで順位を上げてくるなんて」

「ロザリア様のおかげです! ありがとうございます!」


 私は勢いよく頭を下げた。私一人の力では決して成し遂げられなかった。メイドたちの支えも、ミタリーの差し入れも、ロザリア様の参考書も、全てが助けになった。

 そしてもう一つ、私の勉強を支えてくれた存在がある。

 

 ダミロザだ。

 

 例えば貴族法の婚姻規定は、ダミアンとロザリア様の未来に当てはめて覚えた。地理は、ダミロザの新婚旅行を妄想しながら頭に叩き込んだ。

 ただの文字だとするすると抜け落ちていく知識も、ダミロザに変換した瞬間、驚くほど頭へ入ってくる。


(名付けて、推しカプ学習法!)


 我ながら画期的な勉強法である。教育界に革命を起こしてしまうかもしれない。

 特許の申請方法を真剣に考え始めたところで、ロザリア様が口を開いた。


「夜中まで頑張っていたものね。結果が出て当然だわ」


 ロザリア様の言葉に胸が熱くなる。

 推しが、私の努力を見てくれていた。認めてくれた。その事実だけで涙がこみ上げそうになる。

 するとロザリア様はにやりと笑った。


「次も二位を取りなさい」

「一位ではなく?」

「一位は私よ」


 当然のように言い切るロザリア様。

 ロザリア様のすぐ下。これ以上、私にふさわしい順位があるだろうか。


「はい! 次も必ず二位を取ります!」


 強く、美しい女王に私は誓った。


 *



 私がエルフェリア王立学園へ編入してから、二か月が経った。

 雨の日が続き、肌にまとわりつくような湿度が校舎の中にまで入り込んでいる。

 先月の試験で二位を取ってから、侍女の仕事も無事に復活した。勉強と仕事の両立は相変わらず大変だが、充実した毎日を過ごしていた。


 そんなある日のことだった。

 朝の教室に、教師がいつもより少し緊張した面持ちで入ってきた。教室のざわめきが自然と静まっていく。


「編入生を紹介する」


(編入生?)


 そう思うと同時に、教室の扉が開く。入ってきたのは一人の青年だった。

 その瞬間、教室全体が華やかなざわめきに包まれる。私も思わず声を上げそうになった。

 月明かりを溶かしたような淡い銀灰色の髪。春の新緑のように澄んだ翡翠の瞳。彫刻のように整った顔立ちは、恐ろしいほど端正だった。

 彼は教室全体をゆっくりと見渡す。そしてロザリア様の姿を見つけたところで、一度だけ視線を止めた。

 にこりと、やわらかく笑う。


「ユリウス・グランセールです。エリアール国へ留学していましたが、このたび戻ってきました。よろしく」


 簡潔な自己紹介だったが、教室の空気が大きく揺れたのが分かった。令嬢たちは彼の一挙手一投足を追い、教室のあちこちから密やかな囁きが生まれる。

 一方で私は、まさかの存在に息を呑んでいた。


(ユリウスと一緒のクラスになるなんて……!)


 ユリウス・グランセール──原作で、アランに次ぐ人気を誇ったキャラクターである。

 アランの腹違いの弟であり、この国の第二王子。原作でも彼は留学先から学園へ編入してくるが、時期が大分早い。

 確か彼が戻ってくるのは、フィローレが五年生になる直前だったはずだ。


(また、原作が大きく変わっている……)


 私は遠目からそっと、ユリウスの横顔を見た。

 彼は穏やかに微笑み、周囲の視線を受け流している。どこか底が見えない笑みに、嫌な予感が広がる。

 雨雲の向こうで、遠雷が鳴っているような気がした。




お読みいただきありがとうございます!


『推しの悪女の侍女になりました 〜断罪フラグ? 推し愛で全てへし折ります〜』

第1巻の発売から5日が経ちました。


すでにお手に取ってくださった皆様、本当にありがとうございます!

感想やレビューもとても嬉しく拝見しています。


気になっている方は、書籍の詳細を下のリンクからご覧いただけます。

引き続き、ロザリアとソレイユをよろしくお願いいたします!


次回は、8/16 20時ごろに更新します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



【8月3日、書籍①巻発売!】

皆さまの応援のおかげで、
『推しの悪女の侍女になりました』が
書籍になりました!

書籍版では、WEB版の加筆に加え
書籍でしか読めない
書き下ろし短編を2編収録しています。


さらに
初回限定・電子書店限定特典もあります!


ロザリアとソレイユの物語を、
ぜひ書籍でも楽しんでください!


▼ 好評発売中!

『推しの悪女の侍女になりました』書籍版発売中

Amazonで購入する

ぜひ下のリンクから☆☆☆☆☆を
ポチッとしていただけると嬉しいです!

Amazonでレビューを書く

その他の販売サイトは こちら

特典情報は こちら

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。