復讐の序章
大変お待たせしまいまして、申し訳ありません。
――王都
百亜の城が青空を背にそびえ立つ。
その謁見の間。
フェルザス領主ヴァルディスが前に立ち、その後ろにノア、ナディア、フウカ、そしてオルフェリア。
ハヤブサがノアの肩で小さく鳴いた。
「フェルザス領より支援の要請に参りました」
ヴァルディスが口を開く。
「ですが・・・」
一瞬、言葉を区切る。
「此度の連邦国侵攻は王国の命ではありません」
重臣たちがざわめく。
その時ノアが一歩前に出た。
「わたしの意思です」
広間が静まり返る。
「これは王国の戦ではありません」
重臣たちが顔を上げる。
「わたしの復讐です」
ざわめきが広がる。
「連邦国はわたしの家族を奪った」
声は低い、だが震えてはいなかった。
「だから取り返す」
王アルデリオスが問う。
「復讐のために国を巻き込むのか」
「巻き込みません」
即答だった。
「実際、連邦国は何度もバルデックを攻撃しています。そのうち王都にも来るでしょう。そうならないためにもわたしは行きます。今叩いておかないと大変なことになります」
「確かに・・・」
王が腕を組み頷く。
「だが、ノアよお前の個人的な復讐のために、王国の騎士団を動かすわけにはいかん」
「まぁそうですよね、でも連邦国はこの国の経済の中心地バルデックを潰し、その後で王都に攻め入るというのが狙いだと思います」
ノアに続けて、オルフェリアが一歩前へ出た。
「お父様」
澄んだ声が広間に響く。
「バルデックは王国の盾です。そこが落ちれば王都は裸同然になります」
父親である王の目を見つめながら、手ぶりを交えながら真剣に伝えた。
「ノアお姉さまは王国の盾になろうとしているのです」
広間が揺れる。
「ならば王国はその盾を支えるべきではありませんか?」
王は暫く沈黙した。
やがてゆっくりと立ち上がる。
「王国は命じぬ」
重臣たちが驚く。
「だが、支援はする。約束しよう」
そう言うと、ノアを見据えた。
「お前の戦いに王国は背を向けぬ」
ヴァルディスが深く頭を下げる。
「感謝いたします」
王は続ける。
「騎士団の一部をお前たちに同行させよう。そしてフェルザスにも派遣する。王都の防衛は腕の立つ冒険者もいるし、必要ならバルデックへも行かせる」
ノアは静かに頷いた。
「十分です」
オルフェリアがノアの言葉を聞いて、ウンウンと大きく頷いていた。
「ありがとうございます、お父様」
軽く頭を下げた後、ノアの立っている方を向き「これで心置きなく潰しに行けますね、ノアお姉さま」とニッコリとした。
「ところでノアよ、もう手筈は整えているのか?」
少し前のめりになりながらノアを見つめる。
「以前捕まえていた連邦国の指揮官を、こちらの手駒として送り込んでいます。そして、我々が攻め入る時に手引きをしてくれる筈です」
「ふむ、裏切ることはないか?」
「その時はわたしが斬ります」
「うむ」
決意に満ちた表情で王に告げた。
迷いはなかった。
これは正義でも大義でもない。
ただ一人の女の復讐だ。
―連邦国・中央宮殿地下層―
薄暗い回廊に、規則正しい足音が響く。
先を歩くのは、あの捕らえられていた指揮官だった。
疲労の色はある。だがその目は生きている。
「戻ったか」
低い声が暗闇から響く。
中央に立っているのは、銀髪の魔導士ナルヴィア。
氷のような瞳が、ゆっくりと男を捉える。
「あなたが例の勇者と接触した者?」
男は頷く。
「はい、想定以上の戦力でした」
「具体的に」
「一撃で実験体の改式を破壊、装置も同様に・・・」
沈黙が流れた。
ナルヴィアの睫毛がわずかに伏せられる。
「一撃・・・」
興味の色がほんのわずかに滲んだ、がすぐに消えた。
「で、あなたはどうやって戻ったの?」
静かな問いかけに、男の額に汗が浮かぶ。
「勇者は・・・私を帰したんだ」
その場の空気が凍る。
「帰した?」
ナルヴィアの声が一段低くなる。
「はい。手引きをさせるために」
長い沈黙が流れた後、銀髪が揺れた。
「・・・なるほど」
氷の魔法陣が床に薄く広がる。
男の背筋が震えた。
「つまり。あなたは利用されていると」
「はい・・・」
指揮官の男は困惑の表情を浮かべ、目の前の銀髪の女に縋るようにいった。
「こうして私が裏切った事を知られると、消されます」
銀髪の女ナルヴィアが一歩近づく。
「安心して」
瞳が間近に迫る。
「こちらも利用すればいい。あなたは言われた通り手引きして」
「は、はぁ・・・」
「勇者たちはいつ動くの?」
「三日以内には」
「そう」
ナルヴィアは背を向ける。
「迎え撃つ準備を!」
回廊の奥の重い扉が開く、軍議室へと続く長い廊下で、指揮官の男が震えながら「勇者は強いです・・・」と銀髪の髪を見つめてそう言うと「だから?」と一瞬だけ振り返ると、氷色の瞳が静かに光る。
「強い相手ほど、壊し甲斐がある」
その言葉の奥に、わずかな好奇心、わずかな期待。
そしてまだ完全には染まりきらない何かがあった。
――王都・ゼルフェリア
城門前にはすでに多くの人影があった。
ノア、フウカ、ナディア、オルフェリアが城壁の上から街道を見つめている。
やがて土煙が上がった。
「来た」
ナディアが小さく呟く。
先頭に立つのはユウト。
その後ろにセリナ、ゴルド、リアナ、フィオナ、エリナ、ウキ、そしてローズスパイラルとセレスティアの面々。
隊列は整い、無駄がない。
城門が開き、ユウトが馬から降りる。
「待たせたな」
ノアが微かに笑う。
「遅い」
「二日でここまで来たんだ、勘弁してくれ」
セリナが肩を鳴らす。
オルフェリアが誇らしげに言う。
「お父様は兵を出してくださいました」
ノアが静かに全員を見渡す。
「全員揃ったね」
その声は低い。
「さあ、連邦国へ行くよ」
王都の空気がぴんと張り詰めた。
復讐の刃が、今まさに向けられようとしていた。
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