王都へ
連邦国へ攻め入る準備を進めるノア達。
その前に王都へ立ち寄り、支援を要請する。
――連邦国・中央魔道研究塔
薄暗い石造りの大広間。
壁一面に刻まれた魔法陣が、青白く脈打っている。
床に広がる巨大な円環陣。
その中心で、黒衣の男が片膝をついていた。
「実験体・改式、消滅」
低い声が静寂に溶ける。
上段の玉座に座る影が、ゆっくりと目を開いた。
「勇者か」
淡々とした声。
「はい、想定以上の出力でした」
男の拳が震えている。
それは恐怖か、興奮か。
「データは?」
「一部取得してますが、しかし参考値にはなりません」
「ほう」
「一撃で核を絶たれました」
空気が重くなる。
玉座の影は、しばし沈黙した。
「やはり通常個体では意味がないな」
その背後の闇が揺らぐ。
幾何学模様の魔法陣が、ゆっくりと浮かび上がった。
「次段階に移行する」
男が顔を上げる。
「例の計画を?」
「そうだ」
玉座の影は立ち上がった。
その視線の先、搭の奥深くに封印された巨大な氷の扉が。
氷の奥に、淡い光が揺れている。
「適合者は?」
「まもなく覚醒します」
玉座の影は薄く笑った。
「勇者に対抗する駒は必要だ」
氷の扉の向こうで、魔力が微かに脈動する。
鼓動のように、ドクン、ドクン、と。
「目覚めよ・・・」
低い詠唱が響く。
氷の内側で、銀色の光が瞬いた。
塔の空気が、ひやりと冷え込んだ。
床に描かれた魔法陣が淡く輝き、青白い光が氷へと流れ込む。
「魔力供給、安定」
黒衣の男が告げる。
玉座の影はゆっくりと歩み寄った。
「適合率は?」
「98%です」
「うむ、上出来だ」
氷の内部で、何かが揺れる。
やがてーー。
パキン・・・微かに亀裂が。
続けて氷全体に細かなひびが走った。
冷気が吹き出す。
塔の燭台の火が一瞬で消える。
パリンッ!!
氷が砕け散った。
冷たい霧の中から、一人の少女がゆっくりと姿を現す。
銀色の髪が肩にかかる。長い睫毛の下、閉じられた瞼。
そして、薄く蒼い瞳がゆっくりと開かれた。
塔の空気が凍る。
「ここは・・・」
静かな透明な声だが、どこか冷たい。
黒衣の男が頷く。
「連邦国中央研究塔。あなたは選ばれました」
症状は周囲を見回し、状況を即座に把握する目だった。
「選ばれた?」
「勇者を討つための対抗魔導士として」
一瞬だけ、銀の髪が揺れる。
少女は玉座の影を見た。
「勇者・・・」
その単語を、まるで味わうように口にする。
玉座の影が告げる・
「名は?」
少女は少し考え、淡々と言った。
「ナルヴィア」
塔の空気がさらに冷え込み、床に薄い霜が広がった。
「勇者は強い」
黒衣の男が言う。
「実験体を一撃で破壊した」
ナルヴィアの瞳が、わずかに細められる。
「一撃で?」
「はい」
しばしの沈黙。
やがて彼女は小さく笑った。
ほんの少しだけ、口角が上がる。
「おもしろい・・・」
冷たいが、どこか好奇を帯びた声だった。
「ならその勇者とやら・・・」
銀髪がふわりと揺れる。
「わたしが止める」
その瞬間、背後に巨大な氷の魔法陣が展開された。
塔の天井まで伸びる結晶柱。
黒衣の男が息を飲む。
玉座の影は満足げに頷いた。
「期待をしているぞ、ナルヴィア」
少女は静かに視線を落とす。
だがその瞳の奥には、まだ完全には染まりきらない光があった。
ギルドの奥の作戦室。
夜も更け、灯りが静かに揺れている。
ノアは地図の前に立っていた。
連邦国へと続く街道。
山脈。
補給路。
赤い印がいくつも打たれている。
「森の件は前触れだな」
ユウトが腕を組みながら言った。
「そうだな」
ノアの声は低い。
「あいつら本格的に動き出すよ」
続けてフウカが静かに捕捉する。
「実験は段階的に進められています。今回の装置は試験運用に過ぎません」
「つまり?」
「本命が別にあると言うことです」
部屋が静まり返った。
ナディアが息を呑む。
「もっと強いのが出てくるってこと?」
「間違いなく・・・」
ノアは地図を見つめたまま言った。
「それならこっちも本気出さないとね」
その時扉がノックされた。
「入るよ」
扉が開き、入って来たのはギルド長のココネだった。
「決めたよ」
全員の視線がココネに集まる。
「いきなりどうしたの?」
ノアが呆れたように言う。
「バルデックとして正式に王都へ支援を要請する」
空気が引き締まる。
「なるほど・・・」
うんうんとノアが頷く。
「騎士団と物資の協力を取り付ける。単独で行くのは無謀だ」
再びうんうんとノア。
「ただし、王都がすぐに動く保証はない。政治は遅いからね」
「まぁそうだろうな」
ユウトが呟く。
「そこでノア、王都へ出向いてもらう。本人が直接訴える方が手っ取り速いだろ」
「まぁそうだね、もちろん行くよ。オルちゃんを連れてね」
「おぉ!オルちゃんか!これは頼もしい」
ココネがオルフェリアの名を聞くと感嘆の声を上げた。
オルフェリア・・・ここゼルフェリア王国の第1王女だ。
国王のアルデリオスは、王女のオルフェリアを溺愛しており、
娘の言うことには逆らえないだろう事は明白だった。
「もちろんご一緒いたします、ノア姉さま」
「王都へはわたしも同行しますノア殿」
フウカが告げると、ココネが頷く。
「頼んだよフウちゃん」
フウカは一礼した。
「承知しました」
「王都へは領主のヴァルディス様から緊急書簡をすでに送ってもらっている。あとは直接乗り込んで、直談判だ」
そう言うと、ココネはノアの肩をパンと叩き「いよいよだな」と言った。
「よし、それじゃあ急いで準備をして行こうか!あと、向こうで準備ができたらセリナ達とどスケベ達もすぐに合流して欲しい」
「わかってるよ」
「りょうーかい!」
ローズスパイラルのメンバーとユウト、リアナ、ナツメと新人の三人が大きくうん!と頷いた。
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