森の深奥へ。
かなりの間ができてしまいました。
他のことで手を取られてしまい申し訳ありません。
また読んでいただければ幸いです。
巨狼が咆哮を上げ、大地を蹴った。
赤い瞳が一直線にノアを捉える。
その圧倒的な威圧に、新人三人の足が一瞬すくんだ。
だが、ノアは微動だにしない。
静かに刀を構え、深く息を吐いた。
空気が張り詰める。
森の音が消えた。
「二十秒もいらない」
小さく呟く。
勇者の剣が淡く光りを帯びた。
翡翠色の結界が、その背後で静かに揺れる。
フウカが囁いた。
「道は開けております、ノア殿」
巨狼が飛んだ!
影のような速さで迫る。
――その瞬間。
ノアの姿が消えた。
一閃。
音すらない。
次の瞬間、ノアは巨狼の背後に立っていた。
刀を構え、静かに振り下ろした。
ヒュン!
空気を裂く音。
そして、遅れて光が走る。
・・・ズン。
巨体が崩れ落ちる。
額の紋様が砕け、闇の粒子となって消えていく。
森に再び静寂が戻った。
誰も声を発せない・・・。
やがてウキが叫んだ。
「す、すげぇーっす!一撃っすよ姐さん!!」
ナディアが目を輝かせる。
「やっぱりノアさんだ!」
セリナが剣を収め、満足そうに頷いた。
「さすがだな」
ユウトは微笑みながら呟く。
「本当に一瞬だったな」
翡翠色の光静かに消える。
フウカが一歩進み、静かに頭を下げた。
「見事でした、ノア殿」
ノアは刀を鞘に収め、振り返る。
「これで道は開いたね」
森の奥に漂っていた気配は、すでに消えていた。
その言葉に新人三人の表情が引き締まる。
討伐はまだ始まったばかりだった。
巨狼が崩れ落ちたあとも、ノアはすぐに動かなかった。
視線は森の奥を見つめていた。
「まだ終わっていないようだ・・・」
その一言で、空気が再び張り詰める。
フウカが目を閉じ、気配を探る。
「奥に魔力の滞留があります。自然発生ではありません」
「どういう意味だ?」
ユウトが聞いた。
「意図的に集められている可能性が高いということです」
ノアの目が細くなった。
「おもしろいね、行こう!」
さらに奥へと進む。
木々の密度が増し、光がほとんど届かない。
足元には黒ずんだ土。
そしてーー。
「血?」
エルナが小さく呟く。
獣の死骸がいくつも転がっていた。
だが、食われた形跡がなかった。
「餌じゃない・・・」
リアナが眉をひそめる。
「魔力だけ抜かれてる」
その瞬間。
ザァーッ!
地面から影が這い出た。
「下だ!」
セリナが叫ぶ。
シャドウウルフではない。
黒い霧のような狼型の影、実態が曖昧だ。
新人三人が囲まれた。
「くっ・・・!」
エルナが剣を振るうが、手応えが薄い。
「斬れない!?」
フェリナの矢が霧を貫くが、すぐに再生する。
ティリアの魔法も拡散するだけだった。
だが、ノアは動かなかった。
敢えて動かない。
「ノアさん!?」
ナディアが振り向く。
「見てて」
ノアが静かな声で言う。
フウカが小さく頷く。
「これは新人向けの試験ですね」
影狼が飛び掛かる。
エルナが踏み込む。
「霧なら斬るんじゃない、断つ!」
剣に魔力を集中させ、一閃。
空気が震えた。
霧が裂ける。
フェリナが続けて光矢を放つ。
霧が揺らいだ。
「ティリア、今!」
魔法陣展開し、圧縮した火球が炸裂し影が霧散した。
荒い呼吸で三人が立っている。
ノアがゆっくりと近づいて「合格」と一言。
その言葉に新人三人の目が輝いた。
だがその瞬間、森の奥で重く鈍い鼓動のような音が響いた。
ドクン、ドクン、と地面の下から。
フウカが低く呟く。
「・・・源はさらに奥です」
ノアの口元がゆっくりと上がる。
「行こう!」
森の闇がさらに濃くなった。
ドクン ドクン
鼓動のような振動が、地面から伝わる。
森の奥へと進むほど、空気が重くなる。
「魔力濃度、異常です」
フウカが静かに告げる。
木々の間に不自然な空間が見えた。
ぽっかりと開けた円形の空地。
その中心に、黒い柱。
地面に突き刺さるように立ち、紫色の紋様が脈打っている。
「なんだあれ?」
ユウトが低く呟く。
リアナの目が鋭くなった。
「魔力増幅装置・・・こんな技術は王国にはない・・・」
足元には獣の骨や、乾いた死骸。
すべて魔力を吸われているようだ。
「実験だな」
ノアが淡々と言う。
「魔物を人工的に強化してる・・・」
その時、カツンと背後で小石の転がる音がした。
「誰だ!」
セリナが剣を向ける。
木陰から黒衣の男が姿を現した。
顔の半分を仮面で覆っている。
「ほう思ったより早かったな」
その男の声は低く、冷たい目線だった。
「連邦国の者か?」
ノアが問い掛ける。
男が薄く笑いながら言った。
「さあな、ただの観測者だ」
次の瞬間、男の足元に魔法陣が現れた。
影が蠢き、地面が裂けた。
巨大な影狼が柱の魔力を吸いながら形を成す。
先ほどの統率個体とは比べ物にならない。
全身に紫の紋様で、目は血のように赤い。
「実験体・改式」
男が呟く。
「勇者のデータを取らせてもらおう」
ノアの目が静かに燃える。
「データ?」
フウカが前へ出る。
「柱を破壊すれば、供給は止まります」
「そっちは任せた」
ノアは巨狼を見据える。
男が一歩下がる。
「せいぜい抗え」
紫の光が爆発する。
実験体が咆哮し、森の空気が震えた。
ユウトが剣を構えるのと同時に全員が身構えた。
「今度は本物の本命だな」
ノアが刀を抜く。
勇者の剣が、今まで以上に強く輝く。
「ここで終わらせる」
翡翠色の結界が広がり、黒と紫の光が森を染める。
実験体が咆哮を上げ、大地を砕いた。
紫の魔力が奔流のように吹き出し、空気を振るわせる。
その巨体が一直線にノアへと襲い掛かる。
速い。重い。
だが・・・。
ノアは動かない。
刀を肩の高さに構え、静かに息を吐く。
「うるさい!」
その一言。
次の瞬間、ノアの姿が消えた。
実験体の爪が空を切る。
残像。
背後から閃光が走り、一撃を加える。
だが、紫の紋様が弾く。
「・・・ほう」
ノアの口元がわずかに上がる。
「まだ立つか・・・」
実験体が怒号とともに振り向き、牙を剥く。
地面を蹴り、巨体が再び跳躍した。
その瞬間、勇者の剣が真に輝いた。
眩い光が森を白く染める。
「これで終わりだ」
踏み込み、斬撃。
横一文字
光が走り、遅れて音が追い付いた。
ズドンと思い衝撃。
紫の紋様がひび割れる。
実験体の巨体が空中で静止した。
そして、真っ二つに裂けた
紫の魔力が暴風のように噴き出し、闇が霧散する。
崩れ落ちる巨体。
地面に叩きつけられた瞬間、光の粒子となって消えた。
今までが嘘のように静寂が訪れた。
風だけが木々を揺らした。
ノアは静かに刃を振り払い、鞘へ納める。
「くだらない・・・」
背後で誰かの息を呑む音。
ユウトが苦笑する。
「やっぱり一撃か」
フウカが翡翠の光を消し、静かに言った。
「圧倒的ですねノア殿」
森の奥で、観測者の気配がわずかに揺れた。
その顔は、恐怖と集躁。
ノアは視線だけを向ける。
「次はお前だ」
その声に、闇が僅かに震えた。
お読みいただき、ありがとうございます。




