フウカ ⓶
いつもいつもアップが遅くてすいません!
翡翠色の気配が、僅かに揺れた。
遠征の布陣が、今整い始めた。
「ココネさん、あれから森の様子はどう?」
「まだシャドウウルフがうろついているようだ」
「そうなんだ、ボスを倒したのにまだいるのか・・・。ならちょうどいい、練習がてらまた行こう」
「そうだな」
ゴルドが同意し、他のメンバーも頷いている。
「じゃあフウちゃん行こうか」
「フウちゃん!?まぁ・・・了解です、ノア殿」
一行は、ギルドを出て森へ向かった。
外へ出ると昼下がりのバルデックは、いつもより慌ただしかった。
石畳の通りには荷車が行きかい、商人たちが声を張り上げている。
「新鮮な野菜だよ!朝採れだぁ!」
「鍛冶屋の特売だよ!見てけよ!」
だが、その活気の奥にどこか、緊張が混じっていた。
連邦国の襲撃失敗の噂は既に町中に広まっている。
いつまた報復に出てくるか、不安が付き纏っていた。
人々は明るく振る舞いながらも、視線の端で武器を携えたノア達を追っていた。
「ノア様だ・・・」
「勇者様が動くなら安心だ」
小さな子が手を振る。
ノアは少し照れくさそうに軽く手を上げた。
「守られてる感じするっすね」
ウキがボソリと呟く。
ナディアが笑う。
「守る側でしょ!あんたは」
リアナは静かに街並みを眺めていた。
石造りの家々。干された洗濯物、軒先に置かれた花鉢。
守るべきものがここにある。
その横でフウカは一歩引いた位置から全体を観察している。
人の流れ、通りの幅、建物の配置。
視線が一瞬、城壁の上へと向いた。
「ノア殿」
「ん?」
「南門付近は避難経路が狭い。今後の事を考えるなら整備を」
淡々とした指摘。
ユウトが苦笑する。
「もう戦争前提なんだな」
「可能性は常に計算します」
フウカの横顔を、ユウトが少しだけ見つめる。
翡翠色の瞳に、街の光を静かに映していた。
ノアが前を向いたまま言う。
「帰って来る場所だからね」
その一言で、全員の表情が引き締まる。
城門を抜けると、石畳は土道へと変わる。
遠くに広がる森が、静かに風に揺れていた。
その奥で、何かが待っている。
フウカが小さく呟く。
「気配が濃いですね」
ノアが刀の柄に手を掛ける。
「よし行こう」
バルデックの喧騒が背後に遠ざかり、一行は森の闇へと足を踏み入れた。
森の中は、思った以上に静かだった。
湿った土の匂い。
木々の間を抜ける風の音。
鳥の鳴き声すらない。
その異様な静寂を、ノアは一瞬だけ怪しいと感じた。
次の瞬間――。
ザザッ!!
右側の茂みが大きく揺れた。
「来る!」
ゴルドが盾を構え、剣を抜く。
同時に黒い影が飛び出した。
――シャドウウルフ!
一頭だけではない、左右、後方、木の上から一斉に!
「囲まれてる!」
ナディアが叫ぶ。
新人三人が一瞬動きを止める。
その刹那。
ふわりと翡翠色が広がった。
ガギィン!!
ウルフの爪が、透明な薄膜に弾かれる。
「隊列維持。三歩後退」
フウカの声は静かだが、鋭い。
「ノア殿、正面五体」
「任せて!」
ノアの刃が閃く。
一撃で即死。
光が走った。
ユウトが横から踏み込み、二体を斬り払う。
リアナの雷撃が森を白く染める。
ウキが叫びながら突っ込む。
「姐さんの背中はオイラが守るっす!」
だがーー。
木の上から三体が同時に飛びかかる。
「上っ!」
フウカの声と同時に、翡翠の膜が弧を描く。
衝撃が霧の王に拡散する。
新人三人がその隙に踏み込み、初めての一撃を入れる。
「や、やったー!」
だが森の奥から、低い唸り声が響いた。
地面が微かに震える。
ノアが目を細める。
「・・・まだ本命がいる」
フウカが静かに告げる。
「群れの統率個体。距離、およそ五十歩」
茂みの奥で、赤い目が光った。
空気が変わる。
茂みが大きく揺れた。
現れたのは、通常のシャドウウルフの倍はあろうかという巨体。
毛並みは黒ではなく、闇を吸い込んだような濃紫。
額には不気味な赤い紋様が刻まれている。
ゆっくりと歩み出るたびに、地面が軋んだ。
「・・・でかいな」
ユウトが低く呟く。
「統率個体・・・いや、進化種ですね」
フウカの声は変わらない。
「通常個体より敏捷性・魔力共に上、注意を」
巨狼が牙を剥く。
低い唸り声が森を振るわせた。
次の瞬間。
消えた。
「速い!」
ナディアの矢が空を切る。
「右だ!」
フウカが叫ぶ。
ゴルドが盾を構えた瞬間、衝撃が走る。
ドンッ!
盾ごと吹き飛ばされる。
「ぐっ・・・!」
「ゴルドっ!!」
セリナが駆ける。
ノアが地を蹴った。
巨狼の赤い目が一直線に、ノアを捉えた。
「来い!」
ノアの声は低い。
巨狼が再び跳ぶ。
その軌道をフウカが読む。
「ノア殿、左半歩」
翡翠の結界が弧を描く。
巨狼の爪が弾かれ、わずかに体制を崩す。
その一瞬、ノアの剣が閃いた。
だが、硬い。浅い傷しか負っていない。
「・・・ほう」
ノアの口元がわずかに上がる。
「やるねぇ・・・少しは楽しめそうだ」
巨狼が怒号のような咆哮を上げる。
森の奥からまた数体の影が動いた。
フウカが告げる。
「長引けば不利です。二十秒以内に決めましょう」
ユウトが鎌える。
「どうする?」
ノアが答える。
「正面突破だ!いくよ!」
翡翠色が濃くなり、森の空気が張りつめる。
勇者の剣が、静かに光を帯びた。
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