木々を喰らう者
調査を始めてから数時間ほどがたち、俺たちはすでにいくらかの魔物を討伐していた。単独や群れを構成していた魔物などを全部合わせて、たぶん三十そこらだろう。
現在、俺たちは果ての森のとある一帯を調査していた。森の中を歩いていると、不自然に樹皮のはがされた木々をいくつも見つけたのだ。
その不自然な木々は、この辺一帯に存在している。もしかすると今回の騒動の元凶がいるかもしれないと思い、俺たちはこの近辺を調査していたのだ。
雪をかき分けた跡や新しめのフンも落ちていたので、確実に近くになにかがいるだろう。
ただこれまでの様子を見るに、これをやったのは草食の魔物で間違いないはずだ。草食の魔物が今回の騒動を起こしたとは考えられないが、それでもないとは言い切れなかった。
しばらくして、メキメキという奇妙な音が聞こえてきた。俺たちは音のする方向へ向かう。すると――。
「ギィエエエエエェッ!!」
そこには樹皮を強引に引きはがし、バリバリと口にしていた体高三メートルほどの巨大な魔物がいた。
頭部からは一対の幅広い角が生えており、俺たちを見つけると威嚇するように咆哮をあげる。
「グランドエルク……だよな?」
「……そうね、この辺には生息していないはずなんだけど……」
こいつは、『グランドエルク』というヘラジカのような魔物だ。成体の体高は平均三メートルほどで、最大では五メートル近くある者も存在したという、Aランクの魔物である。
草食ではあるのだが、なわばりに侵入した者や幼体に近づく者は積極的に襲い掛かるため、かなり気性が荒いとされている。
グランドエルクのなわばりには、樹皮がはがされていたり角の打ちつけられた木々が見つかるそうだ。このあたりには生息していないはずの魔物だったので、グランドエルクがいる可能性は念頭になかった。
……だが、やはりというべきか、この個体も様子がおかしいな。
普通であれば、グランドエルクは冬の間群れを形成しているはずなのだ。十頭ほどの群れを作るらしいのだが、どうやらこいつは単独行動のようである。
だがしかし、群れでないのはまだしも、この個体の興奮具合は異常だった。
なわばりに侵入してしまったので、戦闘態勢に入るのはまだわかる。しかしそれを加味しても、明らかに落ち着きがなかったのだ。まるで、最初からすでになにかを警戒していたようである。
グランドエルクは樹皮を食べるのをやめると、俺たちに向かって突っ込んできた。
積雪をものともせず、雪を舞い上げながらかなりの速度を出している。
アルバニアが矢を放つ。まっすぐとグランドエルクの頭部に飛んでいくが、角に当たったことで容易くはじかれた。
どうやら、角はかなりの強度があるらしい。
俺がバスタードソードを振ろうとしていると、グランドエルクは前足で俺を蹴りつけてきた。
横へとかわすが、俺は体制を崩す。すると、グランドエルクはそこへ踏みつけてきた。素早く起き上がり、俺はグランドエルクから離れる。
「ブラストウォーター!!」
追撃を入れようとしていたグランドエルクに、アリスは爆発する水球を放った。グランドエルクは足を止めると、軽々と横に跳んで水球をよける。それは軽やかな足取りであり、一切の迷いはなかった。
そうして、俺たちはにらみ合いになる。お互いに出方をうかがい、膠着状態が続いた。
「……ちょっと、近接だとキツイな」
体高が高く足が長いことも相まって、俺がバスタードソードで攻撃できるのは足くらいしかない。足を攻撃してできるのはあくまでも足止めだし、致命傷を与えることはできないだろう。
俺も魔法を使えば胴体や頭を攻撃できるが、そうするとグランドエルクの行動を抑えることは難しくなるので、やめた方がよさそうだ。
「後のことは私たちに任せなさい。だからソータは足止めに集中して」
「はい、危険な役を押し付けているようですが、よろしくお願いします」
「……わかった、じゃあ後のことは頼むぞ!」
俺はグランドエルクにバスタードソードで突きを放つ。すると持ち前の角を使い、グランドエルクは俺の攻撃を防いだ。
角を振り上げるようにして、グランドエルクは俺を後ろに突き飛ばす。そして、再び俺を踏みつけようとしてきた。
そうしてくるだろうと予想していたので、驚きはない。
俺は《転移魔法》を発動すると、グランドエルクの真横へと転移した。そして、バスタードソードを横なぎに振るい、前足を斬り裂く。
さすがに反応できなかったようで、グランドエルクは片足を上げていたこともあって、盛大に転倒した。切断はできなかったが、これで動きは確実に鈍るはずだ。
俺は追撃を行おうとするが、グランドエルクはすぐさま起き上がる。そして、ぎこちなくはあったが角を振り回してきたので、俺は近づくことができなかった。
――しかし、ここにいるのは俺だけではない。
次の瞬間、アリスの放った五本のツララがグランドエルクに襲い掛かる。よけることはできずに、ツララはすべてグランドエルクの胴体に突き刺さった。
よたよたとふらついたグランドエルクだったが、まだ攻撃する意志があるようで、咆哮を上げながら後ろ足でアリスに向けて蹴りつけようとする。
だが、その前にアルバニアの放った矢が額を貫いたことによって、グランドエルクは地面に倒れ込んだ。脳まで達しているようなので、即死だっただろう。
「……本当に強かったな。やっぱり、Aランクの魔物は伊達じゃないな」
ケガこそしなかったが、少しでも油断していたら絶対に無傷ではいられなかっただろう。それほどに、グランドエルクは強力な魔物だった。
俺はグランドエルクの死体をストレージに収納する。
グランドエルクの素材はかなりの部分に使い道があるようなので、討伐すれば可能な限り素材を持ち帰るのが一般的だ。
普通は倒したその場で解体するそうだが、俺は収納魔法が使えるので今すぐに解体する必要はなかった。
グランドエルクの角を使った装飾品は貴族などに人気があるらしく、角はなかなかに需要があるらしい。武器や防具にも使うことがあるようだ。
毛皮や骨も装飾品や防具に使えるそうなので、一定の価格で買い取ってくれるそうである。
そして肉なのだが、これがかなり美味という話だ。きちんと処理できていないと獣臭くなるそうだが、しっかりと処理したものは普通においしく食べれるそうである。
チェイス周辺には本来生息していないので、俺は一度も食べたことがない。時間があれば料理して食べてみるか。
俺たちはしばらく調査を続け、日が沈む前にチェイスへと帰るのだった。




