天を貫く鋭牙
「――フゴォッ!!」
俺は目の前にいる、イノシシの魔物にバスタードソードを振ろうとした。しかし、イノシシはドスンッ! と地面を強く踏み、その鋭い牙を俺に突き上げる。
攻撃を中断し、俺はその牙をよけるために後ろへとぶ。すんでのところでイノシシの牙は宙を貫き、なんとか攻撃をよけることができた。
ここは『果ての森』のとある一角だ。そして現在、俺はアリスとアルバニアの二人と共に、イノシシの魔物――『ファロウシスボア』と戦っていた。
成体の体高は平均一・五メートル、体重は二百キロほどで、メスのランクはC、オスはBという少し特殊な魔物だ。
オスは太く鋭い牙を持ち、その牙による攻撃を受けてしまうと、ざっくりと切り裂かれてしまう。さらに皮膚が硬く厚いため、意外と防御力が高いそうだ。
雑食性でなんでも食べるらしく、その体はかなり大きい。さらに繁殖力が高いので、チェイスでは肉が食用として広く流通していた。
チェイス周辺にはそれなりの数が生息しており、俺たちも以前に何度か戦ったことがあった。ただ、オスとはこれが始めての戦いなのだが。
――現在、俺たちはチェイス周辺の魔物の動向を調査していた。俺たちのほかにも、七組ほど違う場所を調査している者たちがいる。
以前雪かきの依頼で一緒だったメンバーに加え、ほかにも数名ほど高ランクの冒険者が参加してくれたのだ。
まとまって行動するのは効率が悪いため、いくつかに人数を分けて臨時のパーティーを組み、調査に臨んでいる。それが功を奏したのか、今のところあの時のような大規模の群れには出会っていなかった。
しかし、それでも出会う魔物の数は明らかに異常である。
普通であれば、冬の間に活動している魔物の数は、ほかの季節と比べて必ず減るはずなのである。冬眠していたり、ただじっとしていたりと原因は様々だが、活動する魔物が減らないとおかしいのだ。
しかし今日遭遇した魔物の数は、冬にしてはあからさまに異常だった。
さらに、普通であれば冬眠しているような魔物が冬眠していなかったり、なぜか事あるごとに魔物の気がたっていたりと、なにかしらの異変が起きていることは間違いなかった。
現在目の前にいるファロウシスボアもそうだ。
元から気性の荒い魔物ではあるんだが、それでもこの興奮具合は少し異常である。なにかしら原因はあるんだろうが、今のところはそれらしいものは見つかっていなかった。
俺はそんなことを考えながら、またもや振り上げられる牙をよける。
ファロウシスボアの牙はかなり凶悪だ。
太く硬いこともそうだが、最も脅威なのはその鋭さである。一度その牙による攻撃を受けてしまった者を見たことがあるのだが、なかなかに悲惨なものだった。
傷口はかなり深くざっくりと斬り裂かれており、大量出血をおこし、受けた攻撃の鋭さを如実に物語っていた。その人はなんとか無事だったのだが、少しでも対処が遅ければ失血死していたらしい。
そんな理由があって、ファロウシスボアのオスのランクはBに指定されていた。
雌雄などで同族のランクが違うのは、なかなかに珍しいことらしい。俺はファロウシスボアしか知らないのだが、ほかには数えるほどしかいないのだそうだ。
「――俺が足止めするから、二人ともあとは頼む!!」
「わかったわっ!」
「了解ですっ!」
俺は二人にそう言うと、まっすぐと俺に突進してくるファロウシスボアを待ち構える。そして身体強化の魔法を使い、突進をバスタードソードで受け止めた。
後ろへ数メートルほど衝撃によって足を引きずられ、そこでファロウシスボアは止まる。牙を突き上げようとしてくるが、俺はそれを押さえつけた。
先ほどまでは終始高速で動き続けていたため、隙はほとんど存在しなかった。しかし、足を止めたことによって大きな隙ができる。
そしてそこへ、アルバニアの放った矢がファロウシスボアの胴体に突き刺さった。この刺さり具合だと、臓器にも達していることだろう。
「ピギイイイィッ!?」
ファロウシスボアは悲鳴を上げ、よたよたと俺たちから逃げ出した。なかなかに苦痛のようで、その足取りはおぼつかない。
どうやらアルバニアは通常矢ではなく、毒矢を放ったらしい。かなりの即効性があるらしく、急速にファロウシスボアの動きが鈍ったのがわかる。
「ウォーターカッター!」
続いて、アリスは水の刃を放つ。それはファロウシスボアの首元に命中すると、鋭く切り裂いて盛大に血しぶきを舞い上げた。
その攻撃で限界に達したらしく、ファロウシスボアは地面に倒れ込んだ。そしてしばし足をばたつかせ、力尽きる。
「……さすがはBランクの魔物だな、なかなかに手ごわかった」
「そうね、すぐ私たちに近づいてくるから魔法を簡単に使えなかったし、牙が厄介だったわね」
「初めは万が一のことを考えて通常矢を使っていましたが、まさか跳んでよけられるとは予想外でした」
何度かアルバニアは矢を放っていたのだが、そのほぼすべてがよけられてしまっていた。
このファロウシスボアは『弓』というものを理解していたのか、木々や岩などを使って射線に入らないように、うまく立ち回っていたのだ。弓などの遠距離武器の性質を理解していなければ、こんな芸当は不可能だろう。
……それと、たぶんこいつはファロウシスボアの中でも、かなり強い部類の個体ではないだろうか。
古傷がかなり残っており、牙は思っていたよりも長かった。オスとは初めて戦うので、最初はこんなものなんだろうと思っていたのだが、たぶん普通はもう少し弱いはずである。
特別この個体が強かった可能性が高い。それが初戦だったのは、幸か不幸か。
ファローシスボアの死体を回収すると、俺たちは調査を再開した。




