混戦(2)
俺は近くまで来ていた『ダイアウルフ』という狼の魔物に、バスタードソードを横なぎに振るう。
先ほどまでは見えていなかったが、今しがた森から出てきたのだろう。
ダイアウルフはCランクの魔物であり、それなりに強力な存在だ。
体高は一メートルほどと、大型犬よりも一回りか二回りほど大きいくらいである。基本的に群れることはなく、同族同士でなれ合うこともほとんどないそうだ。
毛皮は灰色で、背中の大部分に黒い毛が生えているのが特徴である。
振るわれる俺のバスタードソードを、ダイアウルフは後ろへと軽々よける。しかし、そこへ一本の矢が襲い掛かった。
空中にいたためうまくよけることはできず、その矢はダイアウルフの胸元に深く突き刺さる。
ダイアウルフは衝撃で吹き飛ばされたが、なんとか立ち上がった。しかし致命傷だったようで、しばし足を振るわせたのち、ダイアウルフは地面に倒れ込みそのまま動かなくなった。
見れば、どうやらアルバニアが通常矢を放ったようだ。
威力もさることながら、あの一瞬でダイアウルフの心臓をピンポイントで射抜くのは、さすがはアルバニアといったところである。素直に、その観察眼には脱帽する思いだ。
「ウォーターブラスト! ウォーターカッター!」
アリスは今言った以外にも複数の魔法を使い、多数の魔物を相手取っていた。
不規則に弧を描いて飛んでいく爆発する水球が頭を砕き、水の刃が四肢や首を切り裂く。それ以外にも岩の矢や爆発する火球など、違う属性の魔法も使っていた。
しかも驚くべきことに、それらの魔法はすべて計算されて放たれているようだった。
ウォーターブラストは威力の弱い牽制用のものと、攻撃用の威力の高いものが混在している。さらに攻撃用のものは死角を狙っているようで、かなりの数が魔物たちに直撃していた。
ほかにも、ウォーターカッターは四肢や首などの急所となりえる場所を意図的に狙っているようである。
ネビュラワンドの感覚にも慣れてきたようで、アリスの魔法行使力は以前と比べ、かなり向上していた。
俺の魔法行使力はアリスに追いついてきていたのだが、またもや引き離されてしまったな。
「がぎゃあああぁっ!!」
俺は攻撃してきた『コボルト』の鋭い爪を、転移魔法でよける。
コボルトは、直立歩行し犬頭を持つ人型という不気味な姿をしており、ランクはFとそれほど強くはない。しかし、頭はよくないが身体能力が意外と高く、油断していればけがを負うことになるのは間違いないだろう。
俺が転移したのは、コボルトの真横。そして、転移した瞬間に俺はバスタードソードを横なぎ振るい、コボルトの首を斬り裂いた。
絶命し、コボルトは鮮血をまき散らす。だが俺はかまわず、今度は近くにいた別のコボルトにバスタードソードで突きを放った。
―― ―― ―― ―― ――
しばらくの間、俺たちは戦い続けた。
俺はバスタードソードと魔法を適度に使い、アリスは多種多様の魔法を使って、アルバニアは正確な射撃を連続して行う。しかし、着実に魔物は討伐しているはずなのだが、一向に魔物の数は減っていなかった。
ほかの面々だってかなりの数魔物を討伐しているのだ。精鋭とも呼べるほどの俺たちにかかれば、これくらいの数なら無理なくさばくことができる。だが、それでも一向に減っていく様子はなかったのだ。
原因は明白だ。どれだけ倒しても数が減らないということは、次から次へと新たに魔物がやって来ているのだろう。
魔物の叫び声や爆発音などと、ここはかなり騒がしかった。付近にいた魔物がそれにつられ、続々と集まってきているに違いない。
「お、おいっ! これ、どうにもおかしいぞ!?」
現状に、戸惑いの声が上がる。それも無理はないだろう。なぜなら、かれこれ三十分ほどはずっと戦い続けているのだ。
俺たちの周りには、もはや足の踏み場もないほど魔物の死体が転がっている。そのため、少し前と比べて足場がかなり悪くなっていた。
気をつけて動いているのでつまづいて転ぶといったことはないが、死体を踏む回数も時間が経つごとに増えてきている。
それに全員が戦えるといっても、どれだけのスタミナがあるかは人それぞれだ。なかには息を切らす者も出てきているので、あまりこの状況が長引くのはよくなさそうである。
だがしかし、それでもここでチェイスに引き返すのは避けたいところだった。それは現在顔を曇らせていた、指揮を任されたAランクの冒険者も同じ思いなのだろう。
すでに街道の雪かきは二回も失敗しているのだ。今回も失敗してしまえば、ほかの町との書類のやり取りに致命的な遅れが出る可能性もある。
いちおう現在も急を要する書類などは、わざわざ人の手で運ばれているらしい。しかし、馬車を使っていないために、以前よりもかなり輸送効率が落ちているそうである。
そんな現状を打開するためにも、今回で街道の雪かきは終わらせておきたかった。
「――っ!? ぐあああああっ!?」
……だがそんな思いは遠ざかるように、一人の男がテラーベアーの攻撃によって吹き飛ばされた。血が宙に舞っていたので、早急に手当てをしなければまずいことになるだろう。
そんな男を手当てするために、何人かが協力して男を魔物から守る。
意識を失っているようなので、自分から仲間の方へ戻ることはできない。もし少しでも守るのが遅かったら、男は一瞬にして魔物に捕食されていたことだろう。
回復魔法を使える者が手当てしているので、男が死ぬことはないはずである。ただ、戦力が減ってしまったために前線が崩れ、防戦一方になってしまった。
このまま戦闘を続けていれば、徐々にこちらが不利な状況になっていくだろう。
「くっ……! 全員退却だっ!! チェイスに帰還するぞ!!」
指揮を任された冒険者は悔しそうに顔を歪め、そう決断した。ほかの面々に異論を唱える者はなく、俺たちは魔物に邪魔されながらも、なんとかチェイスまで帰還するのだった。




