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混戦(1)

 ――ザックッザックッと、雪をかき分ける音が聞こえてくる。それは勢い良く、力強いものだった。

 それもそのはずだ。なぜならいま雪かきをしているのは、力が強いことを自慢とする者たちだからである。


 オーウェンは本腰を入れて様々な者に指名依頼を持ちかけたらしく、そうして集まったのはいかにも強者といった者たちだった。ここにいる者たちの最高ランクはA、最も多いのがCと、オーウェンの頑張りようが見て取れる。

 普通、こういった者たちはいろいろとうま味の少ない冬には活動しないもので、冬にこれだけの人数が集まるのは少し異常だった。


 日が昇ってから始めてすでに一時間ほど経つが、その間に魔物とは一切出会っていなかった。

 順調に進んでいるのはうれしいことだが、予想していた様子とはまったく違い、かなり不気味である。


「――それにしても、本当に寒いわね」

「ですね。なにもしていなければ、体の芯まで凍りつきそうです」

「そうだな。特にあまり動いていない、ほかの護衛たちはより一層寒そうだ」


 俺とアリスは魔法を使っており、体を暖めていた。アルバニアにもアリスが掛けているので、アルバニア一人だけが凍えるということもない。

 ただ、ほかの護衛たちはそうもいかないのだ。


 俺たちが使っているのは《ヒート》という魔法なのだが、これがなかなかに難易度が高い。

 操作と維持を失敗すれば、最悪の場合全身に大やけどを負うことになるのだ。かと言って効果を弱くすれば、全く暖かくならない。

 それをうまく調整して、持続的に発動し続けるのはなかなかに難しいのである。それをほかの人にも掛けるというのは至難の業であり、卓越した技術がなければ絶対にできないことだ。


 実際、俺は気が抜けると効果を切らしてしまいそうになるのだ。

 アリスは当然のように使いこなしているのだが、どれだけの技術があればこれを苦も無く維持できるのだろうか?

 そういうわけで、戦闘になればヒートは切らざるを得ない。それに、少しでも動けば体も温まるだろう。


 俺とアルバニアはフードがないもの、アリスはフードのある外套を着こんではいるが、それでもなにもしていなければ凍えるほど寒かった。

 ヒートを使わない状態で突っ立ていれば、今ごろはガタガタと震えていたことだろう。現に、ほかの護衛たちは大きく足踏みしたりして、体をなんとか暖めようとしているしな。



 ずっと魔物の襲撃を警戒しているのだが、一向になにも起こっていなかった。聞こえてくるのは、雪を道の外へどける音と話し声くらいだ。


 雪かきをしている者たちはずっとスコップを振り続けているのだが、疲れている様子は一切なかった。

 身体強化の魔法を使っていれば疲れにくくなるのだが、それでも最初からペースを落とさずに動き続けるのはかなり鍛えてなければできないことだろう。


 そうして辺りを警戒していると、森の方から雪を踏みしめる音が聞こえてきた。それは重々しく、だが素早く、こちらに向かってきているようである。


「全員警戒してくれ! なにかがこっちに近づいてきているぞ!」


 この場の指揮を任されていたAランクの冒険者は、そう警戒を促す。その声を聴き、全員が携えていた武器を構えた。

 そして生えていた木の枝をへし折りながら飛び出してきたのは、『テラーベアー』という熊の魔物。


 街道に飛び出してきた勢いをそのまま、テラーベアーは一人の冒険者に襲い掛かる。その冒険者は冷静に後ろへとび、振られた巨腕を難なくよけた。


 テラーベアーは街道にもよく顔を出すので、戦闘経験がある者も多いと聞く。

 適切な対処を心得ているのだろう。それは、テラーベアーと戦闘する者たちを見ていればわかった。


 繰り出される攻撃を危なげなくかわし、隙を見ては攻撃を加える。そして、一分とせずにテラーベアーは討伐された。

 Bランクの魔物とはいえ、冒険者の集団――それも高ランクの冒険者が多数存在する集団が相手となっては、手も足も出ないようだ。


 ……しかし、通常テラーベアーは冬の間は冬眠しているはずである。腹を空かせて冬の間にも活動する個体は存在するが、その数はかなり少ない。


 そんなことを考えていると、息をつく暇もなくまたもや物音が聞こえてきた。しかも、今度は複数の存在がいるようである。


「気を抜くなっ!! また来るぞ!」


 そうして現れたのは、複数種類で構成された魔物の群れだった。

 ランクも大きさも様々で、軽く五十頭はいるだろう。しかも、協力関係にあるわけではないようで、違う種どうしで争いあう様子がいくつも見て取れた。


 内訳は『キラーディア』が一頭に、『ファングドッグ』や『コボルト』などの群れが多数。

 どうやらキラーディアが逃げるほかの種を狩っていたようで、たまたま逃げてきた進路に俺たちがぶつかってしまったようである。


 ――だが、どうにも様子がおかしい。

 『ファングドッグ』や『コボルト』などが争い合うのはわかる。しかし、この中では一番の強者であろうキラーディアに、隙を見てはほかの魔物たちが襲い掛かっていたのだ。

 キラーディアに負ける様子はないが、それでもこの光景は異常であった。


 そんな中、数匹のコボルトが俺たちに襲い掛かってきた。更にコボルトにつられ、ほかの魔物も俺たちを標的にしたようだ。


「このままでは作業を再開できない! すべて討伐するぞ!!」

『おうっ!!』


 雪かきをしていた屈強な者たちなどは掛け声を上げ、魔物たちに突っこんでいく。俺たちもそれぞれの武器を構え、戦闘態勢に入った。

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