護衛の依頼
チェイスからのびる一本の街道。そこでは二十人ほどの者たちが、幅広いシャベルを使って街道に積もった雪を外へどかしているところだった。
ほかの町と書類のやり取りもあるため、冬の間でも少なからず街道を馬車が走ることがあるのだ。しかし、そこで問題になるのが『積雪』である。
数センチ程度であれば特に気にせずともよいのだが、さすがに十センチ以上にもなるといろいろと問題が出てくるため、雪かきをする必要が出てくるのだ。
チェイスに限らず、ベネット王国は他国と比べて積雪が少ないために、雪かきの道具はあまり充実していなかった。
毎年のように大雪が降る国であれば、専用のマジックアイテムもたくさん出回っている。しかし、ベネット王国にそういった道具はほとんど存在しなかった。
そういうわけで、雪かきの依頼を受けた冒険者たちは、せっせと降り積もった雪を街道の外へとどかしていく。
街道の雪かきをするにあたり、領主である『アベル』は冒険者ギルドに業務を委託した。そして、冒険者ギルドはリクエストボードに依頼書を張り出し、手の空いていた冒険者たちがその依頼を受けたというかたちだ。
『手の空いていた冒険者』というのは、懐が心もとない者や気晴らしに適当な依頼を受けた者などのことだ。そういうこともあって、この雪かきの依頼を受けた者たちはあまり戦闘力が高くなかった。
雪かきと護衛をする者に分かれているのだが、それは護衛をする者たちも同様である。
そうしてしばらく雪かきを続け、チェイスからある程度離れた場所までやってきた。今まではDランクの魔物としか出会っていなかったためか、護衛たちの気が緩んでいる。
……だがしかし、それが災いすることになるとは、誰も予想だにしていなかった。
「――ギィエエエエエェッ!!」
突然、魔物の咆哮が響き渡る。冒険者たちは、すぐさま咆哮の聞こえてきた方に顔を向いた。
そこにあったのは、体高二メートルほどのシカの魔物――『キラーディア』の姿だった。上部に突き出た二本の立派な角が、オスであるということを示している。
どうやら腹をすかせているようで、キラーディアは舌なめずりをしながら冒険者たちを強い視線で睨み付けていた。
肉食であるためか、冒険者たちを捕食しようとしているようだ。
次の瞬間、キラーディアは冒険者たちに襲い掛かる。冒険者たちは一丸となってそれに応戦した。
冒険者たちがあまり強くないと言っても、数は力である。けが人は出たが、しばらくしてキラーディアは無事討伐された。
勝利のムードであったが、次の瞬間にはさらに別の魔物が複数現れた。その中には、Bランクの魔物の姿も複数存在する。
「これはさすがに無理だっ! 撤退するぞ!!」
たまらず、冒険者たちは魔物の追撃を振り切りながら、チェイスに帰還するのだった。
―― ―― ―― ―― ――
「――と、いうことがあったわけだ」
「……なるほどな」
俺はオーウェンから聞かされた内容に、そう言葉を返した。
聞かされたのは、雪かきの依頼を受けた者たちが、複数の魔物に襲われたというもの。
話したいことがあるからと使いの者に言われ、ギルドに来てまず聞かされたのは、そんな雪かきの依頼での出来事だった。
ちなみに、俺とオーウェン以外この部屋には誰もいなかった。
アリスは魔法の練習をしており、アルバニアは家事をしていたので、俺だけで行くことにしたのだ。
「そのあとももう一回試みたんだが、同じような結果になってな。このままだと書類のやり取りが滞って、いろんな所で支障が出てくるんだよ。だから本格的に力を入れて、街道の雪かきをする必要が出てきたんだ」
「それで、俺たちに『指名依頼』をしたいっていうわけか」
「そうだ。今までの傾向を見るに、必ずと言っていいほど多数の魔物に襲撃されることになるだろう。だから、お前たちには護衛役をやってもらいたいんだ」
オーウェンはそう言いながら、一枚の紙を俺に渡してくる。そこには大雑把な依頼の内容と、報酬の金額が書かれていた。
「……ずいぶんと用意周到だな。これ、断らせる気ないだろ」
「まぁな。実はほかのやつらにも同じように依頼の話をしたんだが、ことごとく断られたんだ。やれめんどくさいだの、やれ忙しいだのと散々でな。受けてくれるやつも何人かいたんだが、本当に一部の人間だけしか受けてもらえなかった」
そう言い、オーウェンはため息をつきながらソファーに深く腰かけた。ギシッと音がしたが、オーウェンは気にせず居住まいを正す。
「そういうわけで指名依頼をしたいんだが、どうだ?」
「特にやることはなかったし、それはかまわない。……でも、わざと断りづらい雰囲気を作るのはやめてくれ、反応に困る」
「すまんな、お前たちには本当に受けてほしかったんだ、許してくれ」
オーウェンは申し訳なさそうに笑みをこぼした。
「雪かきを行うのは二日後だから、それまではゆっくりしててくれ」
「わかった、いつも通りゆっくりしておくよ」
俺は再度依頼書に目を通し了承のサインを書くと、そのまま屋敷へと帰るのだった。




