↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/396

錯乱の夜

「――ぐああああああああああぁぁぁっ!?」


 私が自室のベッドで寝ていると、そんな並外れた悲鳴が聞こえてきた。

 誰のものかはわからなかったが、しばらくしてそれはソータのものだったと確信する。


 一瞬にして目が覚め、私はすぐにベッドから飛び起きた。

 今の悲鳴は、明らかになにかがあったこと示している。もしかしたら何者かが侵入して、ソータの寝込みを襲ったのかもしれない。ソータの眠りは深いので、それは充分にありえる。


 私はそう考え、自室を飛出してソータの部屋の扉を急いで開く。すると、そこには予想外の光景が広がっていた。

 目の前に広がっている光景は予想していたものとは違い、ソータの姿しかなかった。だが、ソータは頭を抱えながらうずくまっており、錯乱するようになおも悲鳴を上げていた。


「あああああぁっ!? 俺は、俺はぁ……っ!」

「ちょっと!? いったいなにがあったのよ!?」


 ソータの両肩をつかみ、私はなんとか落ち着かせようとした。するとソータは硬直したのち、私に抱きついてくる。

 いきなりの事でびっくりしたが、私はソータの体を支えた。


「頼む……っ! もう俺を一人にしないでくれ……っ!! 俺は、もう大切なものを失いたくないんだ……っ!」


 ソータは大粒の涙を流しながら、必死に懇願(こんがん)する。

 それもまた悲鳴のようで、そこに普段のような冷静さはわずかさえも存在していなかった。


「お、落ち着いて! 大丈夫よ、私はどこにも行かないから……!」

「う、うぅ……うううぅ……っ!」


 咽(むせ)び、ソータは私の背に手をまわして、泣き続けた。そんなソータの頭を、私はやさしくなでる。


 ソータが私を抱きしめる力はかなり強い。力の加減さえもできないほど、今のソータは傷ついているんだろう。

 なにがあればこうなるのかはわからない。しかし、それでも今の様子にはなにかをせずにはいられなかった。


 私はソータの頭を、落ち着くまで撫で続けるのだった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 なだめられ落ち着いたソータは、アリスと共にベッドへと腰かけていた。

 そんなソータの目の周りには涙の跡が残っており、まぶたを赤く泣き腫らしている。


「……ごめん、心配かけた」

「それは別にいいけど、いったいどうしたの? あんなに取り乱すなんて、なにもなかったわけではないでしょうし」


 アリスが心配そうに聞くと、ソータはしばし口をつぐんだ。なにがあったのかを口にするかどうか悩んでいるようで、苦悩の色を顔に浮かべる。

 しかし、しばらくしてソータは重々しく口を開いた。


「……昔の夢を見たんだ。どれだけ忘れたくても、忘れることができなくて……十年ぐらいたった今でも、鮮明に当時のことを思い出すことができてしまう」


 そう語るソータの目には力がなく、今にも壊れてしまいそうであった。――いや、もはやすでに壊れてしまっているのかもしれない。

 そう感じさせてしまうほどに、いまのソータは弱り切っているようであった。心ここにあらずといった様子で、あらゆる反応が薄い。


「……そういえば、ソータの昔のことは全然聞いたことがなかったわね。よければでいいだけど、教えてもらえないかしら?」

「――わかった。……でも、こんな気分じゃ話すに話せないし、少しだけ相手をしてくれないか?」


 ソータはそう言い、ストレージからワインのボトルとグラスを取り出した。

 アリスがうなずくと、二人は部屋にあるテーブルセットに腰掛けて、グラスにワインを注ぐ。そしてそれをある程度飲み、少し酔ってからソータは話し始めるのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。