錯乱の夜
「――ぐああああああああああぁぁぁっ!?」
私が自室のベッドで寝ていると、そんな並外れた悲鳴が聞こえてきた。
誰のものかはわからなかったが、しばらくしてそれはソータのものだったと確信する。
一瞬にして目が覚め、私はすぐにベッドから飛び起きた。
今の悲鳴は、明らかになにかがあったこと示している。もしかしたら何者かが侵入して、ソータの寝込みを襲ったのかもしれない。ソータの眠りは深いので、それは充分にありえる。
私はそう考え、自室を飛出してソータの部屋の扉を急いで開く。すると、そこには予想外の光景が広がっていた。
目の前に広がっている光景は予想していたものとは違い、ソータの姿しかなかった。だが、ソータは頭を抱えながらうずくまっており、錯乱するようになおも悲鳴を上げていた。
「あああああぁっ!? 俺は、俺はぁ……っ!」
「ちょっと!? いったいなにがあったのよ!?」
ソータの両肩をつかみ、私はなんとか落ち着かせようとした。するとソータは硬直したのち、私に抱きついてくる。
いきなりの事でびっくりしたが、私はソータの体を支えた。
「頼む……っ! もう俺を一人にしないでくれ……っ!! 俺は、もう大切なものを失いたくないんだ……っ!」
ソータは大粒の涙を流しながら、必死に懇願する。
それもまた悲鳴のようで、そこに普段のような冷静さはわずかさえも存在していなかった。
「お、落ち着いて! 大丈夫よ、私はどこにも行かないから……!」
「う、うぅ……うううぅ……っ!」
咽び、ソータは私の背に手をまわして、泣き続けた。そんなソータの頭を、私はやさしくなでる。
ソータが私を抱きしめる力はかなり強い。力の加減さえもできないほど、今のソータは傷ついているんだろう。
なにがあればこうなるのかはわからない。しかし、それでも今の様子にはなにかをせずにはいられなかった。
私はソータの頭を、落ち着くまで撫で続けるのだった。
―― ―― ―― ―― ――
なだめられ落ち着いたソータは、アリスと共にベッドへと腰かけていた。
そんなソータの目の周りには涙の跡が残っており、まぶたを赤く泣き腫らしている。
「……ごめん、心配かけた」
「それは別にいいけど、いったいどうしたの? あんなに取り乱すなんて、なにもなかったわけではないでしょうし」
アリスが心配そうに聞くと、ソータはしばし口をつぐんだ。なにがあったのかを口にするかどうか悩んでいるようで、苦悩の色を顔に浮かべる。
しかし、しばらくしてソータは重々しく口を開いた。
「……昔の夢を見たんだ。どれだけ忘れたくても、忘れることができなくて……十年ぐらいたった今でも、鮮明に当時のことを思い出すことができてしまう」
そう語るソータの目には力がなく、今にも壊れてしまいそうであった。――いや、もはやすでに壊れてしまっているのかもしれない。
そう感じさせてしまうほどに、いまのソータは弱り切っているようであった。心ここにあらずといった様子で、あらゆる反応が薄い。
「……そういえば、ソータの昔のことは全然聞いたことがなかったわね。よければでいいだけど、教えてもらえないかしら?」
「――わかった。……でも、こんな気分じゃ話すに話せないし、少しだけ相手をしてくれないか?」
ソータはそう言い、ストレージからワインのボトルとグラスを取り出した。
アリスがうなずくと、二人は部屋にあるテーブルセットに腰掛けて、グラスにワインを注ぐ。そしてそれをある程度飲み、少し酔ってからソータは話し始めるのだった――。




