母と息子
領主館のとある一室で、俺は金髪の女性と少年の二人と向かい合っていた。
同じ金髪に碧眼と、目の前にいる二人は確かな血のつながりを感じるほど、容姿が似通っている。
「それじゃあ、自己紹介をしましょうか。私は『アメリア・オルティス』。ヴァージルの妻であり、この子たちの母親よ、よろしくね」
「私は『ノア・オルティス』です。いつも姉たちがお世話になっております」
アメリアは優しくほほえみ、ノアはていねいに頭を下げた。
なぜこんな状況になったのかというと、公爵の言っていた二人がハロルドに帰ってきたそうで、俺と顔を合わせることになったのだ。
ちなみに、アリスとアルバニアはすでに二人と顔を合わせたようである。
直接会ってみた感想だが、アメリアは実際の年齢よりも二十歳ほど若く見えた。
ほうれい線もなく、その容姿は非常に若々しい。四十代後半と聞いていたのだが、それを知らなければ二十代後半と言われても納得してしまいそうだった。
そしてノアだが、聞いていた通り頭がすごくよさそうだった。
知的な雰囲気を纏っているというのもそうだが、なんというか言動一つとっても理知的な印象を受ける。これで十四歳という話なんだから、将来が末恐ろしいかぎりだ。
「あー……俺は、ソータです。よろしくお願いします」
俺は微妙にやりづらく感じながらも、そう答える。遠慮なく接してもいいのかわからず、中途半端な感じになってしまった。
フランクに接してくれたアメリアか、礼儀正しく接してくれたノアのどちらに合わせればいいのか、いまいち判断に迷った形だ。
「別にそんな気を張らなくてもいいわよ、私としてはため口で話してもらった方が気が楽だし」
「はい、私もその方が接しやすいのでそうしていただけると」
「……わかった。じゃあ、遠慮なく」
やっぱり、敬語にはどれだけたっても慣れないな。敬語でしゃべろうとすれば、どうしてもぎこちなくなってしまう。
ため口でしゃべることに対して、二人が寛容でいてくれたのは幸いだった。
「ソータ君とアリスのことは聞いているわ。あの子、あぁ見えて意外と弱々しいから、できる限り支えてもらえると私としてもうれしいわ」
「それはもちろん」
「そう言ってくれると安心ね。あの子のことはお願いするわ」
アメリアはニコリと笑みを浮かべ、俺にそう言った。
「ふふっ、これで心配事が一つ減ったわ。最近はいろいろと忙しかったし、これで数日はゆっくりできるわね」
「なにかあったんですか?」
「えぇ、実は王都の方で侯爵家の当主交代があって、それで少しいざこざが起きたのよ。あまり大事にはならなかったけど、それで後処理に追われてね。それに、ノアも王都に連れていっていたし、同時にやらなければならないことがたくさんあったのよ」
少し疲れた様子で、アメリアはそう教えてくれた。
面倒ごとに追われていたようなのだが、なぜかアメリアは少しうれしそうでもあった。
「私が仕事をできるからって、なんでもかんでもこっちに回さないでほしいわ」
「……それ自分で言うことですか? まぁ、確かに母さんは書類仕事が得意ですが、多く仕事が回されてくるのは、頼まれた仕事を全部引き受けているからだと私は思うんです」
ノアは言い分があるといった様子で、アメリアにジト目を向ける。
「それもあるわね。でも、この国の内政に私が一役買っていると思うと楽しくなってくるのよね、この仕事」
「とある高官も同じようなことを言っていましたね。書類仕事ってそんなに楽しいものですか?」
「何事も、物は考えようよ」
片目をつぶってウインクをしながら、アメリアはそう言った。
なんというか、アリスと似たものを感じる。親子だから当たり前のことかもしれないが。
「そういえば、ノアってどんなことをしているんだ? いろいろ勉強しているとは聞いたんだが」
俺は少し疑問に思っていたことを、ノアに聞いてみることにした。
「私は普段『王国立総合学園』に通っています。そこでは主に政治や経済などを勉強していて、いちおう生徒会にも所属していたりします」
『王国立総合学園』というのは、王都にある大規模な学園のことだ。初等部・中等部・高等部がそれぞれ三年ずつという感じで構成されており、初等部には六歳から通うことができる。
ノアが先ほど言った政治や経済に始まり、魔法・魔術・錬金術などと幅広い学科が存在している。そして国内では随一、周辺諸国を含めても有数の規模を誇る学園なのである。
この国には義務教育という制度は存在しないため、学園に通うかといったことは自由だ。ただ、政界や経済に関する仕事に就きたい者や、国や貴族に仕えたいと考える魔法使いや魔術師などは、その大部分が学園に通うらしい。
学園自体は様々な場所にあるが、その中でもとりわけ優秀な者が多く在籍しているのが、この『王国立総合学園』なのである。
あまり詳しくは知らないが、そんな学園の生徒会に所属できるんだ。それなりに頭がよくなければ、入れてもらえないんじゃないだろうか。
「これは自慢だけど、ノアの学力は学年でトップクラスなのよ」
「へぇー、それはすごいな」
「恐縮です。ほかには王城の方へ行ったりもしますね。やはり王城にはその手の方々がたくさん訪れるので、なかなか勉強になるんです」
俺も一度王城に入ったことあるが、確かに何人も貴族であろう人とすれ違うことがあった。
国王と謁見する際に俺たちの様子を見ていた者の中には、伯爵などの上級貴族の姿もあったらしいしな。
しばらく、アメリアとノアの二人と雑談をしていた。
最近の情勢を教えてくれたり、これまでに戦ってきた魔物について話したりと、話題が尽きることはない。しかし、時間は有限である。
気がついた頃には夕食の時間になっており、俺たちはそろそろお開きにすることにした。
「――私はだいたい王都にいるけど、何かあれば遠慮なく頼ってね、可能な限り協力するわ」
「なにか力になれることがあるのなら、私も手伝わせていただきます」
「あぁ、もしものときは遠慮なく手を借りることにするよ。普段はチェイスにいるが、困ったことがあればいつでも呼んでくれ。俺でよければ協力するから」
たがいに協力し合う約束を取り付け、俺たちは雑談をお開きにするのだった。




