生まれの町
公爵と話をしたあとはすぐに寝て、俺が次に起きたのは昼頃だった。そして、現在はアリスと共にハロルドを散策をしている。
アリスとアルバニアの生まれ育った町。興味があり、一度散策してみたかったのだ。
――と言っても、その多くはほかの町と大して変わりはしない。違うのは物価や、売っているものくらいだ。
チェイスでは安い物でもハロルドでは高かったり、またその逆のものもあった。
紅茶の茶葉を使ったパンや、メロンのような珍しい果物が売ってあったりする。これらはハロルド特産のものらしい。
そんな俺にとっては物珍しく、アリスにとっては懐かしい場所で、俺たちはたくさん買い物をしていた。
その量は両手では絶対に持ちきれないほどで、ストレージがなければこうして軽々と買い物を続けることはできなかっただろう。
茶葉・調味料・お菓子に始まり、ぬいぐるみ・洋服・マジックアイテムと、幅広く様々な物を買い込んでいく。
アリスは俺のストレージがなければどうする気だったのか……いや、逆だな。俺がいるからこんなに買っているのか。
「ねぇソータ。これ、どっちがいいと思う?」
「俺はこっちの方がいいと思うぞ。紅茶らしい苦味もあるみたいだが、けっこう甘いみたいだし」
俺はアリスに問われ、素直な気持ちで答える。
『二つの茶葉の内どっちを買ったらいいか』という質問なんだが、正直に言えばどっちも買えばいいと思う。
両方ともある程度値段のするものなので当然マズイわけがなく、金に困っているわけでもない。それに、俺はぶっちゃけ紅茶にはあまり興味がないので、普通に飲めればそれでよかった。
「そう、じゃあこっちにするわ。……いや、でもこっちのも気になるわね。もう両方とも買ってしまうわ」
「そうか――ん?」
何気ない会話の途中だったが、俺はふと違和感のようなものを覚えた。
それは、こちらを観察するような視線。だが害意や敵意は感じられず、それどころか友好的な雰囲気すら感じられる。
現に俺がその存在に気がついたからか、いくらか存在感を強めて、俺に対して敵意がないとアピールしてきた。
俺たちを観察している者たちの人数は三人。全員が隠密に長けているようで、かなりの腕を持っていることがわかった。
この辺りにいることはわかるのだが、その存在を確認することができていないことが、なによりの証拠だろう。
「どうかした? ……あぁ、そういうことね」
アリスは俺の様子を疑問に思ったようだが、すぐにどういう状況か理解したようだ。
「別に気にしなくてもいいわよ、父さんが用意した護衛だろうしね」
「……ずいぶんと、腕がいいんだな」
「そうね、私も全然気がつかなかったくらいだし。昔から町の方に出ると絶対こうなるのよね。私はもう一人でも平気だし、いい加減こういうのはやめてくれないかしら」
ため息をつき、アリスはうんざりとした様子を見せる。
「まぁいいわ。これを買ったらまた次の店に行くわよ」
「ん、わかった」
少し興がさめたようだが、アリスはそれを吹き飛ばすように、元気よく会計へと向かうのだった。
―― ―― ―― ―― ――
日が傾き、夜がもう少しでやって来る。まだ外灯に明かりはともっていないが、それでもあと一時間で完全に夜になることだろう。
そんな中、俺たちはとある場所へとやってきた。
そこは、なんの変哲もない路地裏だった。日差しが遮られているため暗く、ゴミ箱が置かれていたりする、特筆すべきことはないそんな場所。
だが、ここはアリスにとって――そして、アルバニアにとっては明確に意味のある場所だった。
「ここか、二人が出会った場所っていうのは」
「そうよ。懐かしいわね、ここ」
染み入るように、アリスは笑みをこぼす。
「八年前、当時は十歳だったけど、あのときのことは今でも覚えているわ」
「そのときのアルバニアって、どんな感じだったんだ?」
「うーん……そうね、今とは真逆の性格だったわよ。初めて会ったときは、『近づくな!』とか『私に触るな!』とか言われたし」
「……今の様子からは考えられないな」
もはや『誰だよ』って感想しか出てこなかった。穏やかな人でも、昔はやんちゃだったりするからな。
やはり多くの人は、時間がたつにつれて変わっていくものなんだろう。
「さぁ、もう少しで日が暮れてしまうし、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな、暗くなると閉まる店もあるし、今日は帰るか」
俺たちは路地裏を後にし、領主館へと帰路に就くのだった。




