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公爵との会談(2)

「――お前とこうやって面と向かって話をするのは、ずいぶんとひさしぶりになるな」

「……そ、そうね」


 公爵は笑みを崩さず、アリスへ問いかける。

 ほほ笑みを浮かべてはいるのだが、妙にその姿は気迫に満ちていた。しかし、どうにも怒っているというよりは、もっと別の感情による行動と見える。


「えっと……これまでに一度も便(たよ)りを出していなかったのは、その……」


 アリスは言葉に詰まりしどろもどろになりつつ、なんとか公爵に弁明しようとする。早口であり、相当焦っているのが見てとれた。

 手を差し伸べたいのはやまやまなのだが、このやり取りに口をはさむのは失礼だろう。真剣にアリスの言葉を待つ公爵を見ていると、それはさらに強まった。


「――そうだな、お前からは一度も便りをもらっていない。わかっているのなら、それでいいんだ」


 公爵は一向に答えを出さないアリスにそう言う。


「そうだけど、その……それは――」

「心配するな、別に私は怒っているわけではない」


 なおも弁明しようとするアリスの言葉を、公爵は途中で止めた。

 怒っていないというのはわかるのだが、それでも公爵の胸の内には理解が及ばなかった。


「私は先ほど『アリスからは便りを受け取っていない』と言ったが、アルバニアからはたびたび便りを受け取っていたんだよ」

「えっ!? そうだったの!? 私は初耳なんだけど……」


 アリスは驚愕の表情を浮かべ、アルバニアに顔を向ける。


「はい、アリスはめんどくさがると思って、実は三ヶ月に一度ほどの頻度でこちらに便りを出していました。私はお出かけの誘いをたまに断っていたと思いますが、覚えていませんか? そういうときなどに私は便りを書いたり、出す手続きをしていました」

「……確かにそう言われたらなんとなくわかったけど、そういうことならもっと早く言ってくれればよかったのに……」


 露骨に不満そうな態度で、アリスはアルバニアをジト目で見つめた。


 そういえば、アルバニアはたまに便せんのようなものを書いている姿を見ることがあったな。

 なにを書いているのかを聞くのは悪いと思ったので触れないでおいたのだが、そんなことをしていたとは全く知らなかった。


「まぁそういうこともあって、お前をしかる気はさらさらない。私がこういう態度をとっているのは、ひとえにお前たちのことが心配だったからだ」


 公爵はそう言うと、両手で指を組む。


「冒険者という職についた以上は仕方のないことではあるんだが、いろいろと危ない橋を渡ったそうだな。レナード帝国との戦争に参加したり、ファーガス聖王国に現れた強力な魔物を討伐したりと、私が知るかぎりでもいろいろと首を突っ込んでいたそうじゃないか」

「……」

「別にそれをダメとは言わないが、もう少し自分たちの身の安全に気を掛けたらどうなんだ? はたから見ていれば、心配でならない。私はもう少し落ち着いた生活を送ってほしいんだ」


 明らか心配そうにしながら、公爵はため息をつく。アリスはそんな公爵の様子に鋭い目を向けた。

 睨んでいるわけではないが、それでもその眼差しはいつもよりも一段と鋭い。


「……父さんの言いたいことはわかったわ。でも、それには私も言いたいことがあるわね。まるで考えなしみたいに言ってくれたけど、ちゃんとよく考えた上で私たちは行動しているわ。一部の馬鹿な冒険者たちと、一絡(ひとから)げにしないでもらいたいわね」


 語勢を強め、アリスは不満を口にする。その様子は、もはや不機嫌さを隠そうとはしていなかった。


「そっちからどう見えているかは知らないけど、いつまでも子ども扱いしないでちょうだい」

「――フッ……」


 アリスがそう言うと、公爵は小さく自虐的な息を吐いた。目をつむり、その口は弧を描いている。

 そして公爵はおもむろに目を開き、再び話し始めた。


「そうだな、確かにもうお前たちは子どもではないからな、先ほどのことは忘れてくれ。今後も自分たちの身の安全を考えて行動してくれるならば、もはやなにも言うまい」


 そう話す公爵の顔には、底知れぬ笑みが浮かんでいるのだった。


「本来であれば見合いの相談でもしようかと思っていたのだが――どうやら、それは必要ないようだ。娘がここまで立派に成長してくれて、私は嬉しいよ」


 公爵は俺を一瞥する。


 ……たぶんだが、これは最初から俺とアリスが結婚したことを知っていたな。なんのために黙っていたかは見当もつかないが、なにか目的があったのは間違いない。

 俺を試そうとでもしていたのか、はたまたからかっていただけなのか。

 いずれにしても、気難しくつかみどころがない性格だということは、大いに察することができた。


「いい夫婦というのはたがいに短所を埋め合い、長所を伸ばし合う者たちのことだと、私は考えている。――ソータ君。末永く、アリスのことを頼む」


 公爵はそう言うと、俺に深く頭を下げる。

 その態度は領主や貴族としてではなく、一人の父親のものだった。しかし不思議とその姿は立派で、威厳のあるものだった。


「はい、おまかせください」


 こういう場合にどういった言葉を返せばいいのか、俺は知らない。しかし、俺は心からの感謝を込めて、精一杯の返事した。

 すると、公爵はなにも言わずに目をつむってほほ笑む。その表情は、俺には満足そうに見えた。


「ちょっ!? 恥ずかしいから二人ともやめてっ!」


 俺と公爵のやり取りに、たまらずかアリスは悲鳴じみた声を上げるのだった。

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