公爵との会談(1)
俺たちは、案内された客間でオルティス公爵を待つ。
予定されている時間はもう少しであり、俺たちは出されたお菓子をつまみながら話をして時間をつぶしていた。
品のいい調度が揃えられており、オルティス公爵の趣味の良さがうかがえる。窓の外を見れば、宵闇の気配をいくらか感じられる時刻になっていた。
そして、その窓枠はなぜか額縁のごとく精巧に彫り込まれており、外に見える光景は絵画のようである。
「――入るぞ」
そんな客間でしばらく待っていると、扉が数回ノックされた。そして、短い言葉と共に扉が開かれる。
「久しいな、二人とも」
客間に入ってきたのは、上品な衣服を身に纏った初老の男。
老いによるものと思われる白髪も目立つが、その立ち姿からは老いを一切感じさせないほど生き生きとしたものだった。
「えぇ、数年ぶりになるわね」
「仕事の後ですのに、わざわざ時間を取っていただきありがとうございます」
「あまり気にするな。まぁ、話したいことはいろいろとあるが、それはもう少し後ですることとしよう。――さて、顔を合わせるのはこれが初めてだね、君のことはいろいろと噂程度に入ってきているよ」
公爵は俺たちの座るソファーの対面に座ると、俺へと視線を向ける。その視線は優しく、嫌みなものは全く感じなかった。
俺が感じた公爵の第一印象は、『物腰柔らか』。
こちらを下に見ず平等に接してくれたため、かなりの好印象だった。
「お初にお目にかかります、ソータという者です」
「あぁ、私は『ヴァージル・オルティス』。ここハロルドの領主であり、そこの二人の父親だ、よろしく頼む」
公爵が手を差し出してきたので俺はそれに応じ、手を取り握手を交わす。
事前に自己紹介などの受け答えはある程度練習してきたので、一度も詰まらずに言い切ることができた。
「君のことは最近噂としてよく聞くよ。なんでも聖王国に現れた強力なアンデッドの討伐に参加し、見事勝利を収めたそうだね。それに、冒険者のランクもBに上がったそうじゃないか。ベネット王国において、君の名前は有名になってきているようだ」
公爵はニヤリと笑う。
……いや、ちょっと待て。噂のことはともかく、ランクのことはなんで知っているんだ?
別にランクBになったのはつい最近というわけではないが、俺は身近な人間にしか言っていなかったはずだ。ほかの誰かが公爵に伝えた可能性もあるが、それでも違和感が残る。
「あの……なんでランクが上がったことを知っているので? Bランクになったのは最近のことですし、あまり多くの人間が知っている情報でもないんですが……」
「ふっ、私はそれなりの地位にあるんでね、やろうと思えば様々な方々から情報を集めることができるんだよ。少し前にレナード帝国との戦争があったが、そのときにうちの娘たちの名前が上がったので、いろいろと調べてみたんだ」
公爵はそう言いながら、アリスとアルバニアを一瞥する。
「その際に二人がパーティーを組んでいることを知り、同時に君のことを知った。それで興味が湧いてきてね、主に冒険者ギルドから情報を集めさせてもらったよ。そして定期的に情報を集めていたから、比較的最近のことも知っているんだ」
「なるほど……」
「別に二人の目を信用していないわけではないが、親である以上娘たちがどのような相手とパーティーを組んだのか気になったんだ。すでに家を出た以上自由の身ではあるんだが、親としてこればかりは譲れないことだった」
公爵は申し訳なさそうにしつつ、自信満々という器用な態度をしながらそう語る。
素直に、その行動力には恐れ入るばかりだ。
これが親というものなんだろうが、自分でない者のためにここまで行動するという心意気には、脱帽したと言わざるを得ない。
「私は君に着目しているんでね、今後の活躍も楽しみにしておくよ。精一杯、悔いのないように頑張りたまえ」
「はい、頑張ります!」
俺が返事をすると、公爵は満足そうにほほ笑んだ。
「――さて、ではアリス。そろそろ聞きたいことがあるんだが……いいよな?」
「……え? あっ、う、うん」
アリスは公爵に声をかけられ、ギョっとする。もしかすると公爵は俺と話していたので、アリスは油断していたのかもしれない。
「さぁ、まずはなにから聞こうかね」
公爵は一切笑みを崩さず、考えるしぐさを見せた。すると、アリスの顔は盛大に引きつるのだった。




