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穏やかな庭園

 エミリーに屋敷を訪ねられた二日後の朝。その七時頃に、俺たちは屋敷の前にいた。


 俺たちの目の前には乗合馬車があった。

 普通なら住宅街までくることはないのだが、これはエミリーが手配していたという貸切られた乗合馬車になる。


 どうやら、金さえ出せば一定の期間乗合馬車を貸切ることができるらしい。

 これは一等級のものなので相当な金額になるはずなのだが、オルティス公爵が全額支払ってくれるそうなので、気にしないことにしておこう。

 まぁ、折を見て礼を言っておくことにはするが。


 聞くに、この馬車はハロルドで借りたもののようで、御者や護衛は全員公爵側で構成したそうだ。

 じゃあ構成員は用意したのに、なぜ馬車は借り物なのかという話になるのだが、これにはなにやら大きな声では言えない事情があるらしい。


 なんでも、公爵が所有している馬車には全て『オルティス公爵家の紋章』が彫られているらしく、それを今回の目的で使うのはあまりよろしくないそうだ。

 それがどんなものなのかは言えないようだったが、たぶん聖王国の教会で使っている馬車とおなじような理由があるのだろう。


「――それじゃあずっとここにいるのもなんだし、さっそくハロルドに出発しましょうか」

「そうですね。貸切ですし出発のタイミングは好きに決めることができますが、わざわざ遅らせる必要はないですし」


 俺たちは馬車に乗り込む。俺たち以外には乗客がいないためか、とても中が広く感じられた。

 しばらくして全員の準備が整うと、馬車はゆっくりと走り出すのだった。



 馬車は順調に進む。何度か魔物には襲われたが、盗賊の襲撃はなく特に危険なことは起きなかった。

 本を読んだりみんなで話をしたり、はたまた持っていたボードゲームで遊んだりなど、暇ではあったが退屈はしなかった。


 エミリーのことを聞く機会があったのだが、どうやら三本指の中に入るほど公爵に信頼されている使用人であるらしい。


 戦闘は全くと言っていいほどできないそうだが、基本的な家事はもちろん、マナーなども完璧なベテランだそうだ。

 十二歳の頃から公爵に仕えているらしく、アリスが生まれる前から使用人として働いているらしい。アリスが世話になったと言っていたのは、よく昔は遊び相手になってもらっていたからだそうだ。


 まぁそんな話がありつつも、俺たちの馬車は八日をかけてアリスの生まれ故郷、『ハロルド』へとやってきた。

 そして、なんとハロルドはチェイスよりも発展していた。一回り――いや、二回りは大きく、とても栄えている。


 城門につくと馬車は止まり、門番に身分証を求められた。しかし、エミリーが紋章のついた手帳のようなものを見せると、すぐに通される。

 たぶんだが、手帳にある紋章はオルティス公爵家のものだろう。門番の反応を見るに、間違いないはずだ。


 俺たちは町の中へと入る。

 これは感覚的なものだが、ハロルドはチェイスよりも活気があり、賑わっているように思えた。

 王都の近くにあるという立地もあるんだろうが、かなり豊富で様々な品物が売っている。王都を抜けば、ベネット王国の中ではトップクラスに発展した町ではないのだろうか?


 そんな賑わった大通りを馬車は走っていき、町の中央に見える領主館を目指すのだった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 領主館にある庭園を、俺とアリスは散歩をしていた。

 管理が行き届いており、ていねいに刈り込まれた植木や、色鮮やかな花々が咲き誇っている。


 ヴァージル公爵と面会するにあたり、まずはアリスとアルバニアだけで行うことになった。

 しかし、積もる話があるだろうということでこうなったのだが、アリスはこれには否定的だった。


 なんでも、俺がいないと絶対小言を言われるに決まっているらしく、ついてきてほしいようだった。なので俺も一緒にいくことになり、面会の回数は一回になったのだ。

 小言を言われるのは、二年間一切連絡をしていなかったアリスの責任ではあると思う。だが、俺としてはアリスの落ち込む姿は見たくないので、つき合うことにしたのだ。


 しかし、いろいろと仕事のある公爵といきなり面会などできるはずもなく、数時間ほど待つことになった。

 そういうわけで、気分転換に領主館の庭園にやってきたのだ。


 庭園には女神をかたどったと思われる、お皿のようなものを持った石像が置いてある。そして、そのお皿に入れられた水で小鳥が水浴びをしていたりと、穏やかなものだった。


「――小鳥が鳴いていたりして、のどかな場所だな」

「本当にね、昔となにも変わっていないわ」


 アリスはいかにも懐かしそうに、そう告げる。


 現在、俺とアリスは手をつないでいた。

 別に示し合わせたわけではなかったが、気がついたときには手をつないでいたのだ。なんの前触れもなく、当たり前のように。

 最近は二人で出かけるときに手をつなぐことが多かったので、自然と癖になっているのかもしれない。


 俺たちは庭園にあった『ガゼボ』という、八角形で屋根のついた休憩所のような場所でゆっくりとすることにした。

 ガゼボの中にはイスとテーブルがあり、そこに俺たちは腰かける。土台が高く作ってあるため、ここからは庭園を見渡すことができた。


 冷やしたジュースをストレージから取り出すと、俺たちはそれを飲みながら公爵の用意が整うのを待つのだった。

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